保障も資産形成も、主語はあくまで「自分」。お金のプロに聞く“自分ごと化”のコツ──竹川美奈子さん
ライフネット生命の公式note編集部のメンバーが、とある20~30代の若い方とお話ししたときに気になったキーワードが、「損をしない生き方がしたい」「どこに投資したらいいのかわからない」といった声です。
2024年に改正された新NISA制度が話題になり、投資への関心がますます高まりつつある今、将来に向けて資産形成や保障をどのように考えていけばいいのでしょうか。特に20〜30代の若い世代へ向けたメッセージとして、ファイナンシャルジャーナリスト・竹川美奈子さんに、詳しく伺いました。
「保険は貯蓄性で安心」? 「投資は危ないから避ける」?考えるのは“自分がどうしたいか”
──生命保険文化センターの生活保障に関する調査(※)の結果、「貯蓄性のある保険を好む」と回答した人は60%を超えており、保険は保障も貯蓄性も備えていた方が良いのではないかと考える人たちがスタンダードになっているようです。
ライフネット生命としては開業当初から、特にライフプランの変化が激しい若い世代には低廉な掛け捨て型の保険で保険料を抑えて、浮いた分を人生の楽しみに使ってほしいという思いがあるのですが、掛け捨て型より貯蓄性のある保険の方に安心する人が多いのはなぜでしょうか?
竹川:貯蓄から保険に向かうハードルよりも、貯蓄から投資に向かうハードルの方が高いのだと思います。投資は商品の価格が変動しますから、損失を出してしまう可能性もありますし、将来得られるリターン(収益率)が不確実です。だから、「なんとなく投資は怖いけれど、将来が不安だから貯蓄性の保険に入っておく方が安心かな」と思う人も多いのではないでしょうか。
しかし、実際には保険にも投資にもたくさんの種類がありますから、ひとくくりに「保険は安心だ」「投資は危険だ」とは言い切れません。さまざまな選択肢の中で自分に必要な保障は何なのか、自分に合った投資商品は何なのか、しっかりと考えていない人が意外と多いのではないかと思います。
日本は公的な社会保険も充実していますし、さらに大企業だと健保組合独自の制度として付加給付制度が整っている場合もあります。自分で準備する(備える)お金が少なくすむ場合もあります。まずは、公的保障や企業内保障をきちんと調べて、そこから自分で準備するお金を考えてみてほしいですね。
※出典:公益財団法人 生命保険文化センター「2022(令和4)年度 生活保障に関する調査」
──数ある選択肢の中から保険や金融商品を選ぶには、どのように考えたらいいでしょうか?
竹川:私は「平均やモデルケースの数値を参考にするのではなく、「自分は」「我が家は」という視点で、数値化することをおすすめしています。平均やモデルケースは自分には当てはまらないことが多いからです。
──「自分は」「我が家は」という視点に切り替えるのが難しい、と思う人もいるかもしれませんね。自分がどうしたいのかをきちんと把握するためのコツはありますか?
竹川:まずは現状把握をすることですね。「家計の見える化」と、先ほど言った「公的保障と企業内保障」を把握することから始めたいですね。家計の見える化では、「毎月いくらあれば暮らせる?」「1年間でいくら貯蓄(+投資)できた?」「現時点で資産と負債いくらある?」くらいは把握しておきたいところです。
公的保障や企業内保障については、資産形成の場合、公的年金保険では「ねんきんネット」に登録しておく、勤務する会社の退職給付制度(退職一時金や企業年金)について調べてみる、といったところから始めてはどうでしょうか。(公的年金や退職給付が手薄な)企業年金のない会社員やフリーランスの方は自分でしっかり準備する必要がありますね。
併せて、簡易的で構いませんので「ライフプランシート」を作成してみることをおすすめします。
「ライフプランシート」には、自分の年齢や想定されるライフイベントのほか、将来やりたいこととそれらにかかる予算について、「仕事(キャリア)」と「プライベート(趣味・コミュニティ、家族)」に分けて書き出します。お子さんがいる場合は教育費のスケジュールも書いてみましょう。その上で、優先順位をつけて、いつまでに、どのくらい準備すればよいか、毎年どのくらい貯めていけばよいかを整理していきます。
漠然と不安を持ち続けていても、お金の問題は解決できません。まずは一つひとつ書き出して“見える化”すること、数値化することで、より具体的に考えられるようになると思いますよ。
──現状把握、できていませんでした……。「ライフプランシート」を書き出した結果、投資をやってみようと考えたときに、心得ておくべきことはありますか?
竹川:投資についても、自分なりの軸を見つけると続けやすいと思います。ただし、ベースとなるのは「長期・分散・低コスト+積み立て」という考え方です。
長期にはふたつの意味があります。1つは資産形成を考える上では短期的な値動きに一喜一憂するのではなく、長期的な視点で考えることが大切ですよ、ということ。2つ目は企業が成長するには一定の時間が必要なので、長期的な視点で構えようということです。
分散は、一つの会社や一つの国だけではなく、複数の会社や地域に分散して投資することで、リスク(価格の変動)を抑えます。
低コストは、例えば投資信託であれば、保有中にかかる運用管理費(信託報酬)が一定水準以下のものを選ぶとよいですね。NISAの「つみたて投資枠」の対象商品であれば、購入時手数料は無料で、運用管理費用も一定水準以下です。
キホンを押さえた上で、自分が納得する方法にアレンジしていくと、投資を継続しやすいと思います。家族構成や年収、資産や負債はみなさん異なりますので、「他の人がやっているから」「勧められたから」ではなく、自分なりに調べて納得できる資産配分や商品、積み立て金額などを検討してほしいです。
注意していただきたいのは、情報収集をするときは公的な情報(一次情報)にアクセスすること。動画サイトやSNSなどの情報は玉石混淆ですから、鵜呑みにするのは危険です。必ず公的な情報を調べるようにしましょう。金融庁やJ-FLEC(金融経済教育推進機構)のウェブサイトには、お金に関する基礎知識がわかりやすくまとめられたページがあります。
コツコツ投資を続けるための3つのポイント
──株価が暴落したとき、不安になってしまって今まで続けてきたNISAで保有する株式や投資信託を解約しようと考えたりする人もたくさんいます。投資を長期で続けるためのポイントはありますか?
竹川:いくつかあります。
1つ目は「事前に準備しておくこと」ですね。地震が起こってから、「家に水は置いてあったかな?」「避難場所はどこ?」などと考える人はいないですよね。日頃から万一に備えて、避難場所や経路を確認したり、水や食料、簡易トイレなどの災害グッズを用意したりしているはずです。投資についても同様で、「相場が急落してどうしよう」と慌てるのではなく、事前に準備をしておくことが大切です。
2つ目は、投資方針書(図参照)を書いておくこと。大まかで構いませんので、投資の目的、運用期間、運用方法、リスク資産と無リスク資産(預金)の配分、購入する商品、配分と時価評価額をチェックする頻度などをまとめてみましょう。投資方針書は”戻る場所“です。もし株価が暴落するようなことがあったら、投資方針書を見返して、投資を始めたときの目的などを思い出して、心を落ち着かせてくださいね。
3つ目は、「価格ではなく、価値に注目すること」。株式投資というのは本来、その企業の価値を評価して買うべきもの。短期的に大きく下がる局面でも、投資信託という器を通して、その先の投資している企業の価値や、そこで働いている人たちの価値が将来的に高まると考えられるでしょうか。そういう意味でも下がったときでも持ち続けられる企業や投資信託をきちんと選んでおくことが大切です。
4つ目は、「自動化」しておくことですね。例えば、自動的に毎月一定額ずつ投資信託を買い付けるしくみをつくっておけば、下がったときでも、積み立てを継続しやすくなります。
投資のリスクは「金額的」「感情的」に耐えられるかを考える
──投資における自分の考え方をしっかり持っておくと、例え相場が荒れたとしてもメディアやSNSの情報に流されず、冷静に捉えることができそうです。
竹川:そうなんです。それでも株価が暴落したときにドキドキして投資をやめたくなってしまう人は、リスクを取り過ぎている可能性がありますね。現在、手元にあるお金の中で、万一に備えるお金、数年後に使うお金をちゃんと取ってあるかを確認して、投資に充てられるお金はどれくらいなのか見直してみましょう。投資のリスクは「金額的」に耐えられるかだけではなく、「感情的」に耐えられるかの両面から考えることが大切だと思います。
そのためには、許容できる損失を「率」ではなく「金額」で考えること。例えば投資金額の50%が下がった場合、10万円のうちの5万円なら耐えられるかもしれませんが、100万円のうちの50万円だったら耐えらずにやめてしまうかもしれない。どこまで耐えられるかを具体的な金額で考えて、年間に回せる投資金額を検討してみてください。
そうはいっても気になる、下がったときは怖いと思ってしまう人は、仕事に専念をしてSNSなどは見ないようにするというのも、ひとつの方法ですね。最初に方針を立てて、納得した商品を買っておくのが前提ではありますが。
*後編はこちら
<クレジット>
取材/ライフネット生命公式note編集部
文/森脇早絵
撮影/村上悦子