認知症の症状で見える世界や幻覚ってどんなもの?―アルツハイマー型・レビー小体型認知症VR体験会レポート
こんにちは、ライフネット生命公式note編集部の年永です。
ライフネット生命では、7月9日、認知症への理解を深めるための勉強会を実施。認知症の症状を知るために、VR機器での認知症体験を行いました。
ライフネット生命の社員たちが、VR(バーチャルリアリティ)を用いて認知症の「視空間失認」という症状や、レビー小体型認知症の人が発症することのある「幻視」を体験した様子をお送りします。
「問題行動」とされる行動の裏にある認知症当事者の感じ方―「私をどうするのですか?」
今回体験したのは、VR機器を利用したものです。VR機器の利用自体が初というメンバーもいたため、和気あいあいと機器装着を進めていきました。
しかし、最初のVR体験「私をどうするのですか?」が始まると、雰囲気が変わりました。
VRを装着したメンバーの目の前に広がったのは、車が通る大きな道路。左右を振り返ってみると、笑顔でこちらに語り掛けてくる人がいます。
周囲を見てみるとそこはビルの屋上。当然、下を見ると地面までは遠く、1歩前に進んだら大変なことになってしまう……。VR機器を装着した社員からは「おわ!」「わー!」など、思わずといった様子で驚く声がもれます。
横にいる人たちはずっと、「大丈夫ですよ~」「1、2、3で降りましょうか!1、2、3!」など、優しい声色で言い続けます。しかし、当然ながらそんなことをできるはずもなく、参加メンバーたちはなぜそんなことを言うのかと困惑する様子を見せました。
しかし場面は途端に変わり、正面には玄関と、自分を出迎える人が笑顔でこちらをのぞき込んできていました。そこで初めて体験者たちは、自分がいたのは車の後部座席だったこと、そして左右から声をかけてきたのは送迎を担当していた人だということがわかります。
このVRは、認知症の症状の一つである「視空間失認」を体感するものでした。
視空間失認は、視力には問題がないのに、自分のいる空間にある物と自分の位置など、目で見えた情報を認識する能力が低下している状態です。(参考:政府広報「知っておきたい認知症の基本」)
この症状のため、車から地面までのなんてことはない段差も、まるでビルの屋上から地面を見下ろすような高さに感じられてしまうこともあるそうです。
そんな風に感じているときに、「大丈夫ですよ~」と言われても、その言葉に安心してサッと動くことができるのでしょうか。そしてもし、急いでいるからと無理やり手を引っ張って降ろそうとされたら、悲鳴を上げたり、手を何とか振り払おうと暴れたりしてしまうのではないでしょうか。
VR体験コンテンツを提供するシルバーウッド社は、そうした行動が「しばしば『暴言』『「暴力』『介護拒否』など勝手に意味づけされてしまうことも多いのです」と説明しています。またこのプログラムは、認知症がある方を取り巻く『問題』とされるものは、ご本人の問題ではなく、ご本人を取り巻く周囲の理解やコミュニケーションが大きく影響していることが多いということを、ご本人の視点を体験することで理解につなげることを目的としているということです。
実際に体験した社員からも、「目の前の事象を理解するのにとても時間がかかりました。なぜ今自分がここに立っているのかという恐怖と、自分に話しかけてくる人たちがまるで何もわかっていないかのような状況に、体が固まってしまいました」といった感想が出ており、認知症当事者の方が見えている世界がどうなっているのか、まずは「どうしました?」等と本人の話をしっかり聞いて想像を働かせることの重要さを改めて感じる機会となりました。
私が今見ているものの何が本物なの…?―「レビー小体型認知症 幻視編」
続けて体験をしたVRでは、友人の家を訪問したところから始まります。しかし、何か様子がおかしいことにすぐ気が付きます。
玄関で出迎えてくれた友人の後ろに帽子をかぶった女性が立っている……と思ったら、帽子だけかけられたコート掛け。
部屋の隅に男性が座り込んでいる……と思ったら、そこにあったのは大きなカバン。
友人が出してくれたケーキには、何かがうごめいている。
参加メンバーは「え!?」「あ、消えた……」などと口にしながら、周囲をきょろきょろと見回したり、思わず手で触ってみようとしたり、映像の中の何が本物なのかを探っていました。
このVRで体験できるのは、レビー小体型認知症の症状として出てくる「幻視」の状態でした。
レビー小体型認知症は、レビー小体という物質が脳に溜まることで発症する認知症です。アルツハイマー型認知症との違いは、初期にはもの忘れ症状はあまり目立たず、幻視や睡眠時の行動の異常などが出る点が挙げられます。幻視は鮮明で、まるで本当にそこにあるかのように見えることがあるといいます。 (※参考:日本神経学会「レビー小体型認知症」)
VR機器をつけている参加メンバーたちが声を上げたり手を振ったりしているのを見て、つけていないメンバーは「何をしているんだろう?」と不思議そうな顔で見る瞬間もありました。当事者の方は、日常的に周りの人からそうした反応をされているのかもしれないと思うと、心苦しさを感じます。
このVR体験映像は、レビー小体型認知症の当事者である樋口直美さんが監修されたものです。
「幻視は怖いものばかりではなくてとても可愛いもの、(中略)とてもユーモラスなものを見る方もいます」と、樋口さんはインタビュー映像で語ります。
実際、体験映像の中では犬が出てきたり、キラキラしたものが降り注いでいたり、というような幻視もありました。
認知症であると打ち明けられると、どうしても「どうしたらいいんだろう」「助けてあげなくちゃ」と焦ってしまうこともあるでしょう。
しかし樋口さんは、「『近視』があり『遠視』があり『乱視』があるように『幻視』もある。そのくらいに思っていただければ、たとえ幻視があったとしてもそれはなにも問題にはならずに心穏やかに幸せに今まで通り生活していくことができます」と呼びかけます。
大切なのは相手の見えている世界への想像力を働かせること
認知症と聞くと、もの忘れの症状が連想されることも多いでしょう。体験会でもそういったイメージを持っていた参加者もいました。
しかし、実際にはもの忘れ以外の症状もあり、そしてそれに伴う日常生活の中での困難さ、そして発見もあるのだとVR体験を通じて体感することができました。
認知症の症状は人それぞれであり、当事者の人も自身の認知症症状について、それぞれ違った思いを抱えている可能性もあります。
大切なのは「認知症なら●●をする」「認知症だから××なんだ」という固定観念にとらわれるのではなく、その当事者個人個人が抱えている状況や思いに想像力を働かせ、自分に何ができるのか、どうすればその人が快適に過ごせるのかを考えていくことでしょう。そして、認知症への理解を進めることは、自分自身がもしも認知症の当事者になったときにも、自分を助けることにつながるはずです。
今回の体験を認知症の基本を理解するための第一歩として、より理解を深めていきたいと思いを新たにしながら、勉強会を終えました。
ライフネット生命では、認知症のリアルに向き合うための啓発活動に、今後もさらに取り組んでまいります。
<クレジット>
文/年永亜美(ライフネット生命公式note編集部)
撮影/村上悦子