確定申告を忘れちゃった!ペナルティってあるの?
社会保険労務士(社労士)でもあるファイナンシャル・プランナーの中村薫先生が教えてくれる「だれも教えてくれなかった社会保障」シリーズ。今回は、毎年行う人も多い確定申告を忘れてしまった時について。もしもうっかり確定申告を忘れてしまったら、ペナルティはあるの? 締切ギリギリの申告でもなんとかなる? 気になることを、中村先生に伺いました。
確定申告を忘れた時のペナルティ、どんなものがある?
──早速本題にいきたいと思いますが、確定申告は忘れても大丈夫なものなのでしょうか?
中村:遅くなっても申告はできますから大丈夫です。ただし影響のあるケースとないケースがあるので注意は必要です。
確定申告をする人には「税金を払わなければいけない人」「税金を取り戻せる人」の2つのパターンがあります。前者の理由で確定申告をするのは、自営業の人が多いと思います。後者は会社員の方で、住宅ローンの控除を受けたい、生命保険に入ったので控除を受けられるはずが年末調整に間に合わなかった、などの事情がある場合でしょう。
「別に確定申告をしなくてもいいけど、すると控除を受けられてお得」という人達、つまり2つのパターンのうち「税金を取り戻せる人」は、うっかり期日を忘れるなどしても、税務署に対しての影響はほぼないと思っておいて構いません。ただ払い過ぎた税金が戻ってこない不利益を自分が被るだけですから。
一方で気をつけたいのは「税金を払わなければいけない人」の場合ですね。お勤めの人で、副業を頑張って収入を増やした人ですと、追加で税金を払わないといけない場合もあるんですよ。そういう場合に申告期日を超えちゃうと、痛いペナルティがあります。まずは、自分は「税金を払わなければいけない人」なのか、「取り戻せる人」なのか、というのは、早めに把握しておけると良いですね。
──そのペナルティというのは、どういったものなのでしょうか。
中村:これについては、国税庁のウェブサイトをご覧いただくのが分かりやすいでしょう。簡単に概要をご説明しますね。
確定申告を忘れても、即座に税務署から連絡が来る、ということはあまりありません。自営業といった税金がかかるべき人であっても、そうです。しかし、税務署から連絡があった場合には、しっかり迅速に対応しなくてはいけません。
確定申告で税金を払わなければいけない人の場合は、税務署から調査をされてから払わなければいけないとわかった税金に対して、さらに15~20%課税されるんですよ。たとえば、売上は500万円で経費が400万円、つまり利益が100万円の場合、税率が5%なので5万円が払わなくちゃいけない税金の額ですね。50万円までは15%が加算されるので、このケースだと7,500円のペナルティが科せられることになります。(※申告の期限によって、追加で加算される税金は異なります)
というわけで、遅れた日数にかかわらず、ペナルティを受けるということは、忘れないようにしてくださいね。
ただし、税務署から調査される前に、「あ、忘れてた」と気付いて申告すると、ペナルティも軽いものになります。国税庁のウェブサイトには、「期限後申告であっても、次の要件を全て満たす場合には無申告加算税は課されません。」と書かれていますよね。確定申告の期限から、1ヶ月以内に自主的に申告したり、所定の条件を満たしていればOKです。
──税務署から声を掛けられる前と後で影響の大きさが違うとは、初めて知りました。
中村:基本的には、そうですね。恒常的にしっかり利益があって納税していた人が、突然申告しなかったら何か言われるかもしれません。けれど、忘れていた! と気付いたら素直に申告するのが一番ですよ。
さて、今まで説明してきたのは、ペナルティ第一段階です。これに加えて、期限からどれくらいの日数が経ってから納付したかによって、納税額に対して7.3%~14.6%(令和5年は2.4%~8.7%)の延滞税というのがかかるんですよ。先ほどのペナルティとの手痛いダブルパンチとなってしまいます。
「納めるものがあったら早く納めないといけませんよ」というわけで、税金を払わなければいけない人は、確定申告を早めに済ませたいですね。
──税金の申告を誤りなくやらないと、ドラマのように封書が届いて家を差し押さえます、といった通知が突然来るイメージがありましたが、そうではないと知れて安心しました。
中村:それぞれ人によっていろいろな事情がありますし、税金の仕組みが難しいことは税務署の方も分かっています。人によってはどうしても分からないことがストレスになって動きが遅くなってしまうことも理解しているので、遅れてでも頑張って来てくれた人は、逆に「お疲れ様でした」って労ってくれることもあるぐらいなんですよ。
逆に、税務署から言われても申告などの手続きをしない人に対しては厳格に対応されます。税金関係の手続きの経験値が少ない人がきちんと「分からないことがあります」と聞けば優しく対応してもらえますから、安心してくださいね。
──それなら安心して、質問できそうです。
税金還付を受け忘れた場合は、5年前までならさかのぼってできる
中村:今度は「税金を取り戻せる人」のお話もしておきましょう。
申告の時期や手続きは「税金を払わなければいけない人」と同じなんですが、5年前までさかのぼって申告できます。例えば、医療費控除などが使えることを、3年4年経ってから知っても、還付申告は間に合う可能性があるんです。
「3年か4年前に入院して、医療費がこれだけかかって生命保険から給付金を受け取って、高額療養費制度を利用してもまだ赤字があって……」といった、非常に高い医療費を負担したことがあった場合など、ひとまず税務署の窓口に電話などで確認してみるのがいいと思います。税務署に伝えれば、状況を踏まえて丁寧に教えてくれますよ。
──そうなんですね。3、4年前のことを相談したり聞いたりしていいと思っていなかったので、驚きました。
中村:これは相談していいものなのかとか、考えてしまう人もいると思います。申告できるものかどうかは聞いていいことなので、まずは確認してみましょう。どんな情報を持っていけば良いか分からないときも、医療費がいくらかかって保険ではいくら受け取ったのかなど、「こういう情報や書類を集めて、その上で相談に来てくれれば分かりますからね」と言ってくれると思います。
確定申告書類は用意できたけれど、締切は過ぎてしまった! そんな時の対処法
中村:「税金を払わなければいけない人」「税金を取り戻せる人」、どちらも気をつけなくちゃいけないことが1つあります。
個人事業主の方や会社員の方でも不動産所得がある方が行う青色申告には、特別控除というものがあります。期間内にe-Taxで電子申告をした場合に、控除額が65万円になります、というものです。しかし、期間を過ぎると、控除額が10万円(白色申告)の扱いになってしまいます。
控除額がそれだけ違うと、その分かかる税金も大きくなるわけですので、人によってはかなり痛い出費となるでしょう。控除額が55万円も違うと、税金を取り戻せると思っていた人が、多くの税金を払う立場に変わってしまい、さらにその払わなくちゃいけない金額にペナルティがかかるからです。
なので、期限ギリギリになって「申告をしていない」と気付いてしまった場合にはとりあえず、利益・経費・控除等をザカザカっと帳簿へまとめて、急いで申告をしましょう。
──なるほど。e-Taxで申告できるかできないかでも控除額が異なるんですね。e-Taxを利用するためには、マイナンバーカードやカードリーダーなどの事前準備が必要でしたよね……!
中村:その通りです。実は私、マイナンバーカードを持っているからe-Taxで申告する気満々だったんですけれど、いざ申告という時に、暗証番号の期限が切れていたことに気付いて慌てました。もちろんだいぶ前に郵送で更新のための通知も来ていましたが見落としていたんですね。役所へ行って更新はしましたけれど間に合わず、申告期限の23時59分を過ぎてしまったんです。
e-Taxでは、期限が3月15日なら3月15日の23時59分までで受付は終わります。青色申告の特別控除を使おうと思ったら、そこまでには手続きを終わらせなきゃいけません。
けれど、どうしても最終日の時刻までに間に合わなくても、挽回の方法はまだあります。それは従来どおり各種書類を紙で用意して、翌朝、税務署が開く前に税務署の時間外提出用ボックスに入れるという方法です。あまり格好良いことではないですが、これで前日までに済ませたことにできます。
──そうなんですね!
中村:郵便局のポストに投函するのではダメですからね。郵便で出すと翌日の消印がぱたっとついてアウトです。ピンチの時は落ち着いて書類を揃えて、税務署が開く前、時間外提出ボックスに入れる、と。ただし、この場合はe-Taxではなく紙での申告なので、特別控除額が55万円に変わってしまうことも覚えておいてください。
──そうした方法があるとはいえ、やはり、ギリギリにならないように気を付けるのが一番ですよね。お話を伺って、確定申告へのイメージが少し変わったように思います。次回は気持ちとスケジュールに余裕を持って取り組みたいと思います。
<参考>
●国税庁ウェブサイト
<クレジット>
取材/ライフネット生命公式note編集部
文/年永亜美(ライフネット生命公式note編集部)