経営者1,000人が連携し、LGBTQ+が働きやすい環境づくりを推進──「work with Pride 2023」に当社執行役員・片田薫が登壇
2023年11月7日、経団連会館 国際会議場にて『work with Pride 2023』カンファレンスが開催されました。LGBTQ+の職場環境改善を目的に2012年から毎年開かれている同カンファレンスでは、ダンス&ボーカルグループ「AAA」のメンバー、與真司郎さんによるキーノート(基調講演)に始まり、パネルトークや講演など多彩で充実したコンテンツが展開されました。
日本のダイバーシティ&インクルージョンの推進に向けて力強い一歩を踏み出した本カンファレンスの中から、ライフネット生命保険株式会社執行役員 CCO・CISOの片田薫が登壇したトークセッションの模様をご紹介します。
ダイバーシティ&インクルージョンへの関わり方
トークセッションに先立ち、「企業経営者のアライ(LGBTQ+の理解者・支援者/Ally 同盟・同胞・仲間という意味)の輪を広げ、ポジティブなメッセージ発信を進めていくため」に立ち上げられた企業経営者アライネットワーク「Pride1000」の立ち上げが発表されました。
これを記念して行われたトークセッションでモデレーターを務めたのは、オルガノン株式会社の櫻井亮太さん。パネリストとして株式会社電通グループの北風祐子さん、パナソニック ホールディングス株式会社の三島茂樹さん、そして当社の片田薫の3人が参加し、闊達な雰囲気でトークを繰り広げました。
櫻井:まずは自己紹介と、それぞれの企業でどのようにダイバーシティに関わっているかをお話しいただけますか。
片田:ライフネット生命はインターネットで生命保険を販売している会社です。2023年に開業15周年を迎え、現在の社員は200名余り。ダイバーシティの専門部署はなく、私は部門を横断する形で組織されているダイバーシティチームを担当しています。当社は2015年に生命保険会社としては初めて、同性パートナーへの死亡保険金受取人指定を可能にしました。当社の社長である森は、この制度を提案し実現にこぎつけたメンバーの一人。当時、私は事務フローやマニュアル作成を担当していました。ダイバーシティチームが活動を始めたのもそれからです。私自身も勉強を重ねてアライになりました。
北風:私が所属する電通グループは広告マーケティングの会社で、世界145の国に進出しています。従業員数はトータルで約7万2,000人。昨年、私は日本のチーフダイバーシティオフィサーになり、今年からはサステナビリティについても同時に担当しています。当社の女性のリーダー比率目標を決める際に、日本以外の3地域のチーフエクイティオフィサーから「2030年までに45%」という提案がありました。「どうして50%ではないのか」と聞いたら、「ノンバイナリー(男性や女性の性別に当てはまらない性のあり方のこと)がいるので、50%にはならない」と言われ、自分はまだ認識が甘いことを痛感しました。職場で自分の本質的な部分を隠したままでは、信頼関係のベースが築けず、仕事の上でも実力を出しきれないと思いますから、自分が話したければ話せるような職場環境にしていくことが目標です。できることはすべてやろうと考えています。
櫻井:45%という数字が持つ意味は大きいですね。
三島:私はパナソニックグループでダイバーシティ、エクイティ&インクルージョンを担当しています。そのほかにCSR(企業の社会的責任)や、いま課題となっている人権デューディリジェンス(人権への負の影響を特定・予防・軽減などする取り組み)も担っています。当社は「変わってほしい大企業の代表」のような会社だと思いますが、もともと当社のカルチャーのベースにあるのは、「すべての社員は社会からお預かりした存在であり、社会の公器として経営者がしっかりと経営していく」という精神です。この精神に基づき、何十年も前から奮闘し、誰もが安心して自分を表現できる環境を目指してきました。一人ひとりの違いを生かした経営を前提に、ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョンを当たり前にしていきたいと考えています。
櫻井:パナソニックグループは23万人の従業員を抱えていますから、パナソニックグループが変われば日本の人口の0.2%が変わることになりますね!
土台となる制度を整備し、風土も変えていく
櫻井:今回発表された「Pride1000」は、企業の経営陣が参画するネットワークです。皆さんの会社はどのような思いで参画を決められたのでしょうか。
北風:企業としてあらゆる差別や偏見を容認しないという強い意志を示すために、参画を決めました。社員が100%自分の力を発揮できる基盤を整えるという目的もありますね。電通グループでは、日本にある約160社のグループ会社に向けて、慶弔金や給付金など同性パートナーが異性パートナーと同等の権利を行使できるように人事制度を改革し、ひな形を作りました。大きな仕組みが変わらないと、前には進めません。私自身は人事担当ではないのですが、人事担当者と密接にやりとりを重ねて、社長も加えた三角形で協力して取り組みを進めています。
片田:北風さんがおっしゃったように、土台となる制度を整えることは大事です。ただ、当社では制度よりもまず風土の力が大きいと思っています。経営陣がアライであると公にすることで、制度に対する提案や社内の心理的安全性が変わってくると思うんです。当社が掲げるマニフェストには、創業以来大切にしている「多様性を尊重する」という項目があります。新しいものを作り、新しい世界を築き上げていくには多様性は欠かせません。従業員の誰もが気持ちよく働くための環境や、社員がいきいきと、のびのびと働けるように多様性を生かしていきたいと考えています。
三島:制度には会社の中で変えられる制度と、変えられない制度があります。当社では2016年から同性パートナーを結婚に相当する関係として認め、慶弔休暇等も設けていますが、法的には同性婚は認められていないので、健康保険については変えられないのが実状です。私自身、長く人事部門で働き、仕事の上で力を発揮し生産性をあげることが重要だとずっと考えてきましたが、いまは従業員が一人の人間として、心理的安全性が担保された中で働ける環境を作っていくことが非常に大事だと思っています。そのためにはやはり、同性婚を実現させたいですね。できることは限られていますが、アクションを続けていきたい。これは経営者としてやらなければいけないことだと考えています。
「Pride1000」が社会課題を可視化し、解決の推進力となる
櫻井:最後に、「Pride1000」に期待することをお聞かせください。
三島:私は5年後、10年後にはLGBTQ+がノーマライズ(標準化)された社会に近付いていると思います。そのような社会を実現するためにも、皆さんと一緒にこの道を歩んでいきたいですね。「Pride1000」に参加することで、当事者の方がどう考えているのか、コミュニティをどのようにリードしていくべきなのかを知り、自分たちの位置を測りながらアクションを進められます。「Pride1000」は日本の未来を作っていく場だと思いますし、その動きと歩みをともにしながらパナソニックグループは地道に行動を重ねていきたいと思います。
片田:2015年に同性パートナーを保険金の受取人に指定できる仕組みを作り、当事者の方には非常に喜んでいただきました。当事者の方のお困りごとが可視化され、この動きが保険業界に広まっていったのは、自分たちがきっかけのひとつだと自負しています。
「Pride1000」で1,000人の経営者が集まり、自分たちの取り組みを共有することは、社会の課題を可視化し、解決していく推進力になるのではないでしょうか。
北風:「Pride1000」で私が素晴らしいと思うのは、個人がアライだと表明している点です。これは強いと思います。一人ひとりの考え方に触れることで、社会が抱える課題の解決策が見つかる可能性があるかもしれません。同性婚制度に見るように、日本は他の先進国と比べると改革が遅れています。個人の力ではなかなか太刀打ちできませんが、強い意志と希望を持った個人が1,000人集まれば変えられると確信しています。
櫻井:今回のテーマは「企業から変える」ですが、そのためには企業が変わらなければなりません。その意味で、経営者同士のネットワークは非常に重要だと考えています。1,000人集まったときのパワーは大きいですから。ただ、今回、会場を見渡すと、女性の方が圧倒的に多いんです。ぜひ、男性経営者にも関心を持ってもらい、日本の社会を変えていくんだという意気込みで参加してもらいたいですね。
日本の企業を変えていく原動力になるべく、たくさんの経営者、そして働く皆さんに「Pride1000」を知っていただければと思います。ありがとうございました!
11月15日には、ライフネット生命保険のLGBTQ+に関する取り組みが評価され、本カンファレンスと同じく「work with Pride」が主催する「PRIDE指標2023」のゴールドを8年連続で獲得。8年連続での受賞は、日本の生命保険業界としては当社が初めて(当社調べ)となります。今後も多様性を尊重する企業を目指し、まい進していきます。
<クレジット>
取材/ライフネット生命公式note編集部
文/三田村蕗子
撮影/横田達也