ライフネット生命の裏側でデータとAI活用に取り組むデータサイエンス推進室―社員インタビュー①
2008年の創業以来、着実に規模を拡大してきたライフネット生命には、2024年9月現在、20を超える部門があり、その中にさらにいくつかのグループ・チームが属しています。
ライフネット生命公式noteでは、部署それぞれの業務内容や、そこで活躍している社員たちの思いをインタビュー形式でお送りしていきます。
今回は、ライフネット生命が保有する膨大なデータをもとにした分析業務や、社内のAI活用を牽引するDSPチームをご紹介します。
ライフネット生命のDSPってどんな取り組みをしている部署(チーム)?
―まず初めに、データサイエンス推進室(以下DSP)というのはどういう職務を担当するチームなのでしょうか。
渡邉:DSPは、正式にはデータサイエンス推進室といいます。「Data Science Promotion Office」、略してDSPです。
名前にあるとおり、当社が持っているデータを使った取り組みを推進していくことに特化した部署ですが、7~8年ほど前に有志の社員で立ち上げたのが始まりです。
―有志で立ち上げられていたのですか!
渡邉:そうです。有志で「データサイエンスに特化した部署があれば会社の事業成長に資するのではないか」と当時の経営陣に話したところ、「良いね、やってみたら」と後押ししてもらえて作られた部署です。
DSPの活動は、大きく3つに分けられます。
1.社内・社外問わずあふれているデータを集めて整え、使いやすい環境と仕組みを作る
2.整備されたデータを分析して、各部署と改善活動を進める
3.AIを使いこなせる会社、業務効率化・サービスの発展の手段を増やせる環境を作る
という感じです。
―ライフネット生命におけるデータサイエンスの「データ」とは、どういったものを指すのでしょうか。
渡邉:当社ではさまざまな種類のデータを扱っていますが、代表的なものが当社にあるお客さまを起点とした情報です。
お客さまが保険を検討してお申し込みに至るまでの過程で、当社のいろいろなページへアクセスしますよね。それによって発生する情報すべてが重要なデータになります。
我々の分析業務では、ほかのデータセットも利用しますが、現状ではそうしたお客さま起点のデータを扱うことが多いです。
橋詰:今あるデータ以外で「こういうデータがあると良い」というものも、DSPで整えてまとめていくこともありますね。
―具体的なデータの中身はどのようなものなのでしょうか。
渡邉:例えば、お客さまが当社にお電話でお問い合わせいただいたときに、どういう要件なのか番号を選んでいただきますよね。
お申し込みに関するお問い合わせは1番など、自動応答でお伺いします。そのとき1を押したか2を押したかは、お客さまが何を思って当社に連絡してきたかを端的に表す、大事な情報なのです。
まだ活用できる環境にないので、分析できないか、という話をし始めているところですね。
―ウェブチームとDSPの皆さんが、データ分析について一緒に取り組みをしていると聞いたことがあります。どのような取り組みだったのでしょうか。
渡邉:社内にはウェブサイトの改善をするチームがあり、ウェブサイトがお客さまにとってより便利で良い顧客体験ができる場となるように、日々改善活動をしています。その中でABテストといわれる手法を取ることが多いのですが、結果の妥当性がわからないと相談を受けました。
1年間ぐらいかけてDSPが一緒に見て、最終的には自分たちでABテストの結果を評価するためのテンプレートをザエムさんが用意して、チームの方たち自身で分析ができるようになりました。
難しいものはDSPに相談が必要だとしても、ある程度は各部署で自走できるような世界を目指しています。
――収集したデータを分析できるようになることが、ライフネット生命にとってどんな意義を持つと思いますか?
渡邉:各部署の方たちは、日々いろんな試行錯誤をされています。そしておそらく「こうやったら良い」という、言語化できない経験値に基づく判断基準をお持ちだと思います。
それを数字やデータをもとにしたファクトで言語化するお手伝いをして、意思決定につなげられれば、判断の再現性を高められると思いますね。
業務では何かを判断するタイミングがたくさんあるので、再現性を高められたほうがより良い取り組みができて、失敗も少なくできますし、失敗からも学べることもあります。データ分析がそういう形で活用されるように、社内に広がっていけばいいなと考えています。
―たしかに、個人の経験だけに紐づいてしまうと、その人がいなくなってしまった途端に判断軸がずれることはありそうですね。それがデータ分析によって全社に共有ができれば、会社としても強みになりそうです。
渡邉:そうですね。Aさんという業務にすごく精通した人がいたとして、その人が異動した場合なんかもそうですよね。その人がやれば間違いないというのが確立していたとしても、その人の判断を基準にしたうえで、次はもっとより良い判断ができるかもしれない。その一助になればいいなと思っています。
―ザエムさんはどのような取り組みをされているのでしょうか。
ザエム:自分は、データ活用のほうに力を入れています。各部署にヒアリングをしてどういう課題を抱えているか、それをデータで解決できないかを話を進めながら集計や分析をしています。
最近ではテレビ広告の出稿を企画するマーケティング部と協力した例があります。
テレビCMを放映するときに、どの枠が良いかを検討する際の効率化、例えばどの時間帯の何曜日の何時ごろに放映すると、より多くの方にウェブサイトへ来訪していただけるか、という分析をしていました。
―実際に一緒に取り組んでいた川端さん、どのような印象でしたか?
川端(当時のマーケティング部長):コンバージョンレート(ウェブサイト訪問者のうち、購入などの成果に至った件数の割合)の分析結果の良し悪しは、テレビ広告枠のバイイングをどういう方針でしているのかをこちらがお伝えしない限りわからないものです。ザエムさんはテレビのバイイングの業務をまず理解するところから関わってくれたので、すごく大変だったのではないかなと……。毎月毎月ちゃんと資料にまとめる必要もありますし……。
データを見ればわかるものもあるかもしれませんが、それが実務側の狙いどおりになっているのか、その検証結果が次に活かせるものになっているかは、こちらがインプットしない限りわからないと思うのです。
実務を担う部としても、ザエムさんに限らず、どういう仮説でそのクリエイティブをそのCM枠で放映したのかを説明できないといけないなと感じました。
―もともとザエムさんはCMには興味があったのでしょうか。
ザエム:どちらかというとありましたね。以前から電車内の広告や、テレビCMは観ていましたが、その案件を担当し始めてからは「あ、この会社のCMはこういう風にやっているのだな」と、さらに興味関心が強くなりました。また、関連のあるセミナーに参加するようにして、なるべく知識を得るようにしていました。
―データ分析と聞くと、数字だけを見ているとイメージされることもありそうですが、DSPの取り組みは数字だけとにらめっこするのとは全然違う世界のようですね。
渡邉:そうあるように、日々勉強して、皆で補完しながら取り組んでいます。
初めて新しい部署から相談されるとその部署のそのチームの業務を理解する必要があります。何をやっているのか知ることから始めないと、データの意味やどうしてそういった数値になるかもわからないので、各部署と会話しながらやっています。
―分析だけでも大変な印象がありますが、社員のみで分担しているのでしょうか。
橋詰:任せられる範囲では、学生さんのデータサイエンス系を主に専攻している方をアルバイトとして雇って、分析業務を依頼することもあります。
当社としては、常に学生さんから新しいデータサイエンスの潮流を取り入れることもできて、いい関係を作れているかなと。データサイエンスをビジネスで利用するという面ではこちらがアドバイスできることもあります。
「ライフネット生命で学んだことは研究で活かせているが、研究で学んだことをライフネット生命であまり活かせてないから、そこを何とかしたい」といった課題感をいただいているので、彼らにとってもプラスになっているのかなと思っています。
個人の能力も最大限発揮して自社内AIシステム開発と情報処理能力で会社を支えていくDSP
―橋詰さんはAIの活用の部分に比重を置いていると伺いました。
橋詰:企業におけるAIの活用って、世の中には「これを真似すればいい」というロールモデルはまだないです。おそらく次世代ではAIが当たり前に使われるものになっていくと思います。それに当社が乗り遅れないように、なおかつ当社ならではの使い方をゼロから考えようとしているところです。
もしかすると世の中で一般的なAIの使い方は当社にとって相性が悪い、という結論になるかもしれませんが、それを含めてちゃんと検討したうえで、社内ツールの実装をしています。
―最近だと、どんなものを作られているのでしょうか
橋詰:最近だと社内用LLM(Large Language Model)、社内用のChatGPTに似たウェブアプリケーションを、マーケティング部の若手社員と二人でゼロから作りました。
橋詰:すでに世の中に出ているChatGPTなどの外部サービスを使うことも選択肢にありましたが、社外秘情報の管理やアプリのカスタマイズが難しくなります。
ですが、ゼロから社内で作ったウェブアプリなら、そういった情報も気兼ねなく活用できるというのも強みの一つです。自社でゼロから作ったほうが、セキュリティ的にもアドバンテージがありますし、今後当社がウェブサービスを使うことになっても、そのプロダクトに組み込むこともできます。
それを踏まえ、当社の中にノウハウを貯めていく狙いもあり、DSPで実装を行っています。
―社内LLMの利用状況は、今のところどのぐらいなのでしょうか?
橋詰:2024年10月時点では、大体7割ぐらいの社員に使っていただきました。
社内全体のデータを把握できるDSPの強みを生かしたサポート体制
—DSPの強みについて教えてください。
橋詰:DSPの強みは、部門横断でデータが見られることですね。
例えば保険金を請求したお客さまのことが知りたいと思っても、保険金部で見られるのは、その人がどういう契約をしたか、何年前から入っているかなど、あくまで申し込み後のデータです。
DSPだとそのさらに前、お客さまが申し込み前にどのページを見たかや、どの広告から入ってきたかまで見ることができます。それにより、お申し込み前に〇〇のページを見ていた人にはこうした情報提供をしたほうがいいという提案ができます。
会社の中にある分析組織としてさまざまな部と長い期間伴走するので、過去の施策の失敗などを踏まえて、新しくやる施策の効果がある程度予測できますし、施策のPDCAを回す責任を持って、最後まで回せるところは良いところですね。
渡邉:複数の部門が関わる案件の中には、落としどころが難しい案件ってありますよね。
各部署それぞれが持っている目標が業務にちゃんと落とし込まれているが故に起きることなので、それはそれで良いことではあります。
しかし、元をたどると本来達成するべき目標はほかにもあって、そこから評価をすると違う見え方になることもよくあるのです。例えば、申し込みの件数で見たときと、契約の継続率を見たときでは、データに対する評価が異なる、といったケースです。
どのラインで分岐点を作ったらいいかをDSPから提案することによって、うまくバランスが取れたケースもありましたね。そこでもDSPの強みが生きたのではないかなと。
ライフネット生命の裏側を支えるDSPの今後の意気込み
―今後の意気込みについても、ぜひ伺えますか。
渡邉:今シーズンはAIの活用をより広げていきたいと思っています。3年後などに、データ分析とAI活用が業務で当たり前になって、それによって従業員全員の生産性が上がること。ひいては、働く人たちの満足度の向上に貢献できたらと思っています。また、その結果として当社サービスを利用するお客さまの体験がより良くなれば嬉しいです。
橋詰:AIの話もそうですが、部署としての能力をもっと高める必要がある1年だと思っています。
今は皆さん当たり前にインターネットを使いますし、ブラウザをある程度触れるのが当然の状態になっている。AIもそうなってくると思いますね。したがって、AIを常識のように使いこなせる世の中になったとき、ライフネット生命が遅れを取らないようにするための貢献ができる部署にしていくつもりです。
ザエム:自分にとってデータサイエンティストに一番大事なものは好奇心かなと思っています。新しい発見が見つかったら喜びを感じられる人になっていきたいなと思っています。
―DSPの皆さんが挑まれている分野は、数字だけでない気遣いの世界でもあるのだなと今回のお話を伺って感じました。本日はありがとうございました。
<クレジット>
取材・文/年永亜美(ライフネット生命公式note編集部)
写真/ライフネット生命公式note編集部