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ライフネット生命の産業医に聞く! 健康診断の大切なポイント

会社勤めをしている人だと、毎年受けることになる健康診断。すべて異常なしとなって笑顔で終われる人もいれば、要検査や要治療といった結果が出て焦った人もいるでしょう。産業医のいる会社に所属している場合は、産業医の先生から「健康診断結果を持って、病院を受診してください」と言われた、なんてこともあるかもしれません。しかし、要検査・要治療と言われても、どの値にどんな問題があるから、どの病院を受診すれば良いのか……迷っているうちに面倒になり、そのまま過ごしてしまっている人はいませんか?

そこで今回は、ライフネット生命でも産業医として勤務されている諏訪内浩紹先生に、健康診断の意味と結果を受け取ってからやるべきことについて、詳しくお話を伺っていきます。


会社勤めなら頼りたい、産業医の役割とは


──諏訪内先生は、ライフネット生命の社員に健康に関する研修をしてくださる等、社員と関わる機会も設けてくださっていますよね。普段、先生は産業医として、どんなお仕事をされているのでしょうか。

諏訪内:産業医は、労働安全衛生法に基づき設置される存在です。主に日本医師会認定の産業医と、労働衛生コンサルタントの資格を持つ産業医、産業医科大学卒業者であるなど、有資格者のみがなれます。

労働安全衛生法は、労働者の安全と健康、快適な労働環境の確保を目的として生まれた法律です。

法律上では、従業員が一定以上になると、安全衛生委員会を設置しなくてはいけません。産業医はこの委員会の集まりへ、月に1回参加しています。私の場合、社員面談も月に2、3回行っています。

では産業医と委員会がどんな役割を果たしているかというと、パソコンのOSのように、企業全体の健康に関する運用をしています。その上に、健康診断やストレスチェックといった個々の取り組みが追加されていくイメージです。最近は特に企業側も、労働状況の改善に意欲的ですね。

また、休職者へのサポートを産業医が受け持つことも多いです。メンタルの不調から休職をしてしまうアブセンティーイズム(病欠)の問題も多く、メンタルに不調を抱えている方は、身体的にもトラブルを抱えていることもままあります。メンタルと身体、どちらにも問題があるとなると、元々のパフォーマンスを100%発揮するのは難しいでしょう。健康な方でも頭痛などの体調不良がある日は、生産性が下がってしまいますからね。出社はできているけれど健康状態に問題があり仕事に影響が出てしまう、プレゼンティーイズム(健康問題による作業効率の低下)の問題を抱える方への対応も産業医が担っています。


健康診断の結果で要検査・要治療……その後はどうすればいいの?


東京医科大学病院 糖尿病・代謝・内分泌内科医師 諏訪内浩紹(すわない・ひろつぐ)さんの写真
諏訪内浩紹さん(東京医科大学病院 糖尿病・代謝・内分泌内科医師)

──なるほど、産業医は社員の健康管理全般を司っているのですね。そのための基本情報ともなる健康診断ですが、受けた後に「要検査」「要治療」といった結果が出た場合には、どういった流れで受診や再検査を受ければ良いのでしょうか?

諏訪内:健康診断の結果を病院や健康診断施設から受け取って要検査や要治療となっていた場合には、保留にせず、すぐにでも受診をしていただきたいです。便潜血や強い貧血などの症状には別の悪性疾患が原因のことがあるためです。

基本的には、どの項目で引っかかったとしても、まずは内科を受診すれば良いでしょう。
その中で糖尿病だとわかれば糖尿病科へ、便潜血で内視鏡検査が必要になったら消化器科へ、と必要に応じて受診する科を変えていけば問題ありません。

健康診断は労働法規に定められているもので、労働者、企業双方を守るためにも重要です。継時的に毎年受けていただくことで、病気になった時に突然発症したものなのか徐々に悪くなっていったものなのかを判断できます。

業務の都合上、長時間労働がどうしても必要になった場合に、リスクを抱えている人などを把握できれば、その人の労働負荷を調整したり、健康状態に応じて適切配置を行えたりします。

長時間労働が続くと、帰宅が遅くなるので睡眠時間が減ってしまいますよね。健康診断で血圧が通常より高いと診断された人の睡眠時間が少なくなると、動脈硬化を起こす危険性が出てきます。そうした病気で倒れた人が出た場合、企業は責任を問われることもあるのです。

健康診断結果によっては保健指導や、我々産業医による働けるかどうかの就業判定、難しい状態の場合には治療勧奨……と対応を進めていきます。働けるけれど就業制限が必要な人には、治療が終わるまでは残業禁止とする場合もあります。


日本人の健康事情と健康診断結果から読み取れるリスク


──健康診断にはさまざまな項目がありますが、正直なところ、それぞれにどういう意味があるか、わかっていない部分もあります。体重が増え過ぎていないかを確認したり、がん検診を受けたりするのは必要だとは思っているのですが……。

諏訪内:では、日本人の現在の健康事情についてまずは説明していきます。まず、厚生労働省の「第23回生命表(完全生命表)の概況」によると、人の生存曲線というのは男性も女性も徐々に下がっていきます。全体として死亡数が上がり始めるのは、40歳前後から。60歳くらいになると、およそ100人に1人が亡くなる可能性があります。

死亡原因は年齢により異なりますが、がん、自殺、心疾患、脳血管疾患などが多いです。がん情報サービスの「最新がん統計」を見ると、がんの種類の中では、肺がんと胃がんが多く、最近増えてきているのが大腸がんと膵がんです。肝臓がんはC型肝炎患者の減少に連動して、減少傾向にあります。女性は乳がんや子宮頸がん、子宮体がんも多いですね。これらのがんを予防するのが、高齢になってからも健康に過ごす重要なポイントです。

また、心疾患や脳疾患も合わせると全体の20%ほどいることが厚生労働省「令和4年(2022)人口動態統計(確定数)の概況」から分かります。心疾患と脳疾患は、いずれも前兆なく突然亡くなってしまうケースも多い病気です。そしてこうした病気はメタボリックシンドロームとの関連性が認められています。

──肥満と指摘されても見た目の問題だけだから気にしない、という人もいるかもしれません。しかし、肥満は高血圧や心臓病といった重大な病気と結びついているから、検査項目に組み込まれているのですね。

諏訪内:健康診断には特定健康診断(メタボ健診)や職場で年1回受ける定期健康診断、またがんなどの特定の病気を見つけるための検診もあります。定期健康診断は、健康問題による作業効率の問題を抱える方を見つけ、ケアしていくためにあります。

たとえば健康診断結果から病気が疑われる人を見つけて、場合によっては医療受診のお願いをしていきます。さらに面談を重ねて、近くの医療機関に紹介状を書くなど、きめ細かく対応しています。

──産業医の面談と健康診断を社員が受けることで、産業医側がより適切なアプローチをできる。健康診断や受診が憂鬱だという人も多いようですが、そういう人に健診を促すのが産業医として最初の仕事と言えそうですね。

諏訪内:その通りです。健診や受診を受けたがらない人は、ままいらっしゃいます。休職する方の中には、問題を抱えてから休職まで一気に進んでしまう方もいらっしゃいます。そのため、その手前でそれを食い止め、パフォーマンスを向上させるためには、健康診断を受け、その結果からケアを行い、リスクを下げることが重要です。

休職した方のお話を聞くと、食事が1日1回あるいは逆に食べ過ぎており、体重の急激な増減が見られることが多いです。健康上、睡眠時間の確保も重要ですが、4、5時間程度しか寝られていないという人も多いですね。そういった不健康な状態が休職の入り口になってしまうので、その入り口より先に進んでしまう前にサポートをするのが重要です。

──なるほど、健康診断の結果から、これら病気の糸口をつかめるようになっているんですね。

後編では、健康診断結果から読み解く健康リスクについてお話を伺っていきます。

*後編はこちら↓

<クレジット>
取材/ライフネット生命公式note編集部
文/年永亜美(ライフネット生命公式note編集部)
撮影/村上悦子

<プロフィール>
諏訪内浩紹(すわない・ひろつぐ)
医師、医学博士。2002年慶應義塾大学医学部卒業。大学院を経て、2004年よりハーバード大学ジョスリン糖尿病センター留学。2009年東京大学医学部附属病院 専門研修医、2011年国立健康栄養研究所 特別研究員、2012年東京大学医学部附属病院 糖尿病・代謝内科 助教。2017年より東京医科大学病院 糖尿病・代謝・内分泌内科 講師。総合内科専門医、労働衛生コンサルタント、日本医師会認定産業医、糖尿病専門医、腎臓専門医。

※こちらの記事は、ライフネット生命のオウンドメディアに過去掲載されていたものの再掲です。

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