お金にも“働いて”もらう時代の、資産運用の3つのポイント【FP黒田の人生相談】
コロナ禍の影響で収入が減少したという、今回の相談者さん。しかし、減った収入を補おうと、会社の許可を得て副業を始めたところ、以前よりも少し収入を増やすことができたとか。また、副業によって本業では得られない刺激もあるようです。
貯蓄についても前向きに考え始めた相談者さん。果たして、黒田先生のアドバイスは……!?
できる範囲で「投資」を始めてみて
相談者さんは人生にお金の「貯め時」が3回あることをご存じですか? 最初の貯め時が結婚して子どもが生まれるまで。次の貯め時は子どもが小さい間(就学まで)。最後の貯め時は、子どもが大学等を卒業してから定年退職するまでの期間です。
ずっと独身の場合や、結婚しても子どもがいない場合も、貯められる時に貯めておくのが良いという点は同じです。ご自身にとっていつが貯め時なのかを意識してくださいね。
その上で、私は増えた収入を投資に回すことをおすすめします。さらに言うと、収入に余裕が出たら投資を検討するのはマストと考えるのが良いだろう、というのが個人的な本音です。それはなぜか。
日本経済の成長率は長期にわたって低迷しています。金融緩和はこの先も続き、低金利もずっと継続する可能性があるということです。そうなると、銀行にお金を預けて増えることを期待するのはかなり難しい。また、将来的には賃金構造が変わっていく可能性や、税や社会保障の負担が増えることも考えられます。
こうした状況を踏まえて総合的に考えると、資産は効率的に増やすのがベター。収入を増やしつつ資産運用も行うといった合わせ技が重要になってくるのです。まずはこの点を押さえておきましょう。
資産運用するときには、目的と金額と期間の3つを決めよう
資産を運用する効果はどれくらいのものかを考えてみましょう。仮に毎月1万円を金利5%で複利運用すると、10年後には約155万円に、ご相談者さんが60歳になる25年後には約596万円に増えます。3%だとしても、25年後には約446万円に増えます。
*金融庁「資産運用シミュレーション」で試算(2023年9月時点)
さらに、資産を取り崩す期間の運用も想定してみましょう。
60歳までに資産残高1,000万円を貯めて、そこから一切資産運用を行わずに過ごしたとします。年金が10万円、支出が15万円の生活を続けると、毎月5万円を資産から取り崩さなければなりませんよね。もし取り崩している期間中、資産を全く運用しなかったとすると、1,000万円の資産は約16年、77歳で枯渇してしまいます。女性であれば平均寿命まで10年ほどありますが、手元に資産が残っていない状態で過ごさなくてはいけない可能性が出てきます。
でも、年利3%で運用を続ければ約23年、5%なら約36年ももちます。このように、資産は一定の利率で運用しながら増やしつつ、取り崩すという考え方が大切です。
運用する際にはポイントが3つあります。投資をする前に、「目的」と「金額」と「期間」の3つを決めること。この3つが定まっていないと、途中で取り崩したり、自分に向いていない商品を選んだりしてしまいます。
例えば、あと5年で300万円貯めたいなら年間60万円、月にして5万円を貯める必要があります。もしも金額的に難しいなら、目標額を減らすか、期間を伸ばすしかありません。必ず目的と金額と期間を明確にしましょう。
その上で、貯蓄するときにはまず、収入から貯蓄分を先取りして確保すること。余ったお金を貯めるというのでは、いつまでたってもお金は貯まりません。目安としては、月収の2割、30万円のお給料なら6万円ですね。貯蓄用に先取りするよう心掛けてください。
リスク性のある商品は「長期」「リスク分散」「積立」がキーワード
投資商品の選び方としては、アセットアロケーション、つまり資産の置き場所を考えることが重要です。できれば、つみたてNISAやiDeCoなど、税制面での優遇措置が受けられる口座へ優先的に資産を置きましょう。最近はロボアドバイザーでNISAを利用できるようになっています。これは何に投資をしたらいいのかわからない方にはおすすめの選択肢です。
リスク性のある商品を選ぶときには、「長期」「リスク分散」「積立」がキーワード。相談者さんは35歳。まだまだ時間がたっぷりありますから、毎月の積立額は少なくても、長期の運用ができますね。早くから始めれば少額でも効果を感じられるでしょう。
積立はドル・コスト平均法を利用するのが良いでしょう。ドル・コスト平均法とは、株式や投資信託など、価格が変動する金融商品を一定の金額で、時間を分散して定期的に買い続ける方法のこと。これを利用して金融商品を購入し続けると、価格が低いときには購入量が多く、価格が高いときには購入量が少なくなります。
これによって、平均買い付け単価が抑えられる効果があるのです。また、投資信託の販売手数料や信託報酬などのコストについても注意が必要です。複利で運用すれば資産が増えていくように、コストも複利で増えていきます。できるだけコストが割安なものを選んでください。
そして忘れてはいけないのが、資産運用は家計の救世主ではないということ。自分がよく分からない、理解できない、と思う金融商品には手を出さないのが一番です。
100万円も1円から、小さな成功体験をまずは積み重ねて
いろいろお話してきましたが、具体的にどのような商品を組んだらいいのかわからない、という場合には、投資信託の評価会社のサイトなどを利用してポートフォリオを組んでみませんか。
投資の元となるお金を決めて、運用する期間や目標金額を入力すると、どのような株式を組み合わせるといいのかを、自動で組んでくれるものもあります。便利ですよ。
でも、もし相談者さんが絶対に元本割れはいやだ、リスクは回避したいと希望するなら、無理して投資をすることはありません。リスクとリターンは表裏です。リスクを取らずにリターンを得ることはできません。
その場合には、金利はひとまず度外視して、まずは投資のタネとなるお金を貯めることから始めましょう。100万円も1円から。コツコツ100万円貯まったら、せっかくだしこんなことをしたいとか、もっと大きく増やしたいという夢や願望が出てくるかもしれませんよ。
最後に相談者さんにアドバイス。もしかすると、がんばった自分へのご褒美として増えたお金を使いたくなるかもしれません。それも素敵ですが、そこはグッと我慢がいいですよ。少しは使いたいという場合には、「増えた分の何割を自分の楽しみに回すのか」というルールを作っておくことをおすすめします。
老後はどんな人のもとにも必ず訪れます。お金がありすぎて困ることはありません。将来を見据えて、できることから始めてみてください。
<クレジット>
取材/ライフネット生命公式note編集部
文/三田村蕗子
撮影/村上悦子