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経験者が「やっておけばよかった」と語る、認知症介護への備えとは?

2023年12月4日、ライフネット生命で、「認知症とお金」をテーマに社内勉強会を開催しました。ご登壇いただいたのは、ライフネット生命公式noteでおなじみのファイナンシャルプランナー・黒田尚子さん。

若い世代から中高年世代まで、誰もが知っておきたい認知症。前回に続き、認知症になったときの経済的リスクに対してどのように備えるべきか、詳しく解説していただきました。

*前回はこちら↓

<当日のプログラム>
(1) 知っておきたい認知症の基礎知識
(2) 認知症が家計に与える5つの問題
(3) 認知症による経済的リスクに備える方法←今回
(4) 質疑応答←今回


認知症介護の経験者が「介護の前にやっておきたかったこと」とは?


勉強会の3つ目のテーマは、「認知症による経済的リスクに備える方法」。最初に、黒田さんは認知症介護経験者の声を紹介しました。
 
「経験者が認知症の介護の前にやっておけばよかったと思うことの第1位は、認知症の症状を理解しておくことと、公的介護保険の仕組みや地域での支援サービスを理解しておくことでした。このように答えた人はいずれも97.1%※と、必要性を感じている人が多くいるようです」
※出典:太陽生命少子高齢社会研究所、「認知症介護に関する調査」(2022年9月)

出典:株式会社太陽生命少子高齢社会研究所「認知症介護に関する調査」(2022年9月)

介護サービスにかかる費用は、地域ごとに異なる単価が設定されています。そのため、同じ東京都内でも、住んでいる市区町村によって負担額に差が出ます。加えて、独自の介護支援を用意している自治体もあります。本来であれば全額自己負担のサービスが、地域によっては公的介護保険が適用できる場合もあるそうです。
 
「みなさんのご両親、あるいはご自分のお住まいの地域の地域包括支援センターに、地域の介護サービスや事業者の状況について問い合わせてみてください。保健師や看護師、社会福祉士、主任ケアマネージャーの方が丁寧に教えてくださります。地域包括支援センターとは、65歳以上の方に向けた“よろず相談所”のような場所。できればご両親と一緒に行って、どんなことでも構わないので気軽に相談して顔をつないでおくことをおすすめします」

黒田尚子さん

続いては、経済的リスクに備えるための、基本的な考え方の解説です。まず、備えのベースにあるのは公的制度。次に、勤務先からの付加給付。最後に自助努力として預貯金と、医療保険や介護保険などの民間保険の3段階があるとのこと。民間保険に関して、黒田さんは次のように補足しました。
 
「認知症保険の契約を視野に入れるのも備えとしては有効ですが、一方でいったん入ると解約しない限りは保険料の負担が発生します。保障が必要になる時期までちゃんと継続できるか、家計に与える影響をよく考えなければいけません。それから、健康状態によっては保険を契約できない場合もありますから、注意が必要です」

出典:黒田尚子FPオフィスの資料をもとに作成


介護保険・認知症保険の加入率は低い


「近年、医療・介護に関する制度の改定が相次いでいます。2018年以降は毎年のように見直しが進められ、医療費や介護サービス費の負担が徐々に引き上げられています。
 
注目していただきたいのは、改定のスパンがどんどん短くなっていること。特に2024年は6年に一度の医療・介護・障害福祉サービスの“トリプル改正”があるのではないかといわれています。特に介護は負担が増える見通しです」
 
そこで認知症の備えを考える場合、選択肢の1つとなるのは民間保険です。大きく分けて2つあり、1つは認知症の治療費や施設入所費が必要になったとき、保険金を利用できる生命保険。そしてもう1つは、認知症の人が起こす交通事故やトラブル保障のための損害保険です。
 
ただ、生命保険文化センター「2021(令和3)年度 生命保険に関する全国実態調査」によると、介護保険、介護特約の世帯加入率は16.7%(2021年)と前回調査(2018年)より2.6%増加しているものの、まだ低い水準となっているとのこと。さらには認知症保険・認知症特約の世帯加入率は6.6%と非常に低い水準です。
 
なぜ、介護保険や認知症保険の加入率が低いのでしょうか。黒田さんは次のように分析しました。

「理由は4つあります。
 
1つ目は、介護や認知症にかかるお金の現状が分かっていないこと。多くの人は、介護や認知症になった場合の未来を想像したくないという気持ちが根底にあるのです。将来考えられる可能性について知識を増やして、正しく恐れることが大切です。
 
2つ目は、公的介護保険への過度な期待。日本は国民皆保険、国民皆年金だから、介護の際も公的保険で十分まかなえるのでは、と思っている人が多い。しかし、公的介護保険は保障のベースにはなりますが、これだけで、希望する介護が受けられるとは限りません。また、改正も頻繁に行われており、今後は保険料が増える上に給付サービスは減っていく可能性があります。
 
3つ目は、民間介護保険の役割を正しく理解できていないこと。民間介護保険は公的介護保険を補完するものです。例えば、公的介護保険の対象は40歳以上ですが、40歳から64歳の第2号被保険者の人は、加齢に伴って16種類の特定疾病による要介護状態にならなければ、介護サービスは受けられません。つまり、交通事故で要介護状態になっても、対象外なのです。しかし、民間介護保険であれば、一定の要件を満たせば対象になります。このような、民間介護保険の役割をきちんと理解しておくべきです。
 
4つ目は、相対的に介護保険や認知症保険の優先順位が低いこと。現役世代なら、まずは死亡保障や医療保障、就業不能保障などの保険から検討する人が多いのではないでしょうか。介護や認知症に対する保障はどうしても後回しになってしまいがちです」
 
そこで黒田さんは、「医療と介護と相続はセットにして、一連の流れで備えた方がいい」とアドバイスします。医療保険に入っていても、その後、要介護状態になってリハビリ施設や介護医療院に入所しても医療保険の給付対象にはなりません。さらに相続問題は、介護の時点で家族が揉めてしまうケースが多いといいます。
 
では、民間保険に備えておいた方がいい人とは、どんな人なのでしょうか。黒田さんは次の5つの項目を挙げました。

・要介護のリスクが高い
・年金収入や資産(金融資産、自宅)が少ない
・介護資金を貯める時間が短い、時間がない
・おひとりさまや家族(介護におけるマンパワー)が少ない、家族がいない
・公的介護保険外サービスも積極的に活用して介護の質を高めたい

ただ、これで備えは十分というわけではありません。最後に、黒田さんは介護や認知症に備える上で心に留めておくべきポイントについて触れました。
 
「お金をかければ、いい介護が受けられるわけではありません。しかし、経済的余裕があれば選択の幅は確実に広がります。ただし、仮にお金があっても、要介護になってタクシーやヘルパーなどの有料サービスを多用しているとあっという間にお金がなくなります。誰かが被介護者を見守ってくれるような環境を日頃からつくっておくことが大切です」


将来子どもに介護の負担をかけないために、どんな備えができる?


黒田さんのお話が終わった後、質問タイムが設けられました。以下、主な質問と黒田さんのお答えを紹介します。

【ライフネット生命社員①】
「私は、要介護になっても子どもに負担をかけたくないと思っています。具体的にどんな準備が必要でしょうか。お金の準備や相続関係の整理以外にできることを教えていただきたいです」

黒田さんは、一番大切なのは健康に気を付けることだと強調しました。
 
「ご自分が要介護になったとき、施設に入りたいのか、最期まで自宅で過ごしたいのかを考えた上で、地域サービスの情報を地域包括支援センターで調べること。自分の財産管理をどうしているか、お子さんに共有すること。これが基本になります。それから、質問者さんはまだお若いですから、将来要介護状態にならないように、日頃から意識して生活することですね。認知症も含めて要介護状態にならないように、生活習慣に気を付けて過ごすことが大切です」
 
介護への備えに関連して、家族とのコミュニケーションについての質問もありました。

【ライフネット生命社員②】
「親の介護の負担はできるだけ減らしたいと考えています。しかし、私が『介護に備えておきたい』と話しても、父はなかなか協力してくれず、財産管理の情報共有や介護保険の加入もできていません。どのように解決すればいいのでしょうか」

黒田さんは、「このようなケースは非常に多い」と大きくうなずきました。
 
「おそらく、現時点でお父さまご本人が困っていないから、危機感を抱きにくいのでしょう。自己開示をしてもらう方法として、メリットやデメリットを強調することが挙げられます。例えば、『お父さんが何もしないまま認知症になってしまったら、相続に使える制度が使えなくなるから、損をするかもしれないよ』という話し方です。しかし、私が見てきたケースを振り返っても、家族だからこそ、話を聞いてもらえなかったという声も多々あるようです。その場合は、ご自身が困るまで待つしかありません。
あるいは、お父さまご自身が信頼している親戚や友人、知人などに話をしてもらうことも1つの手です。最近は、子どもから話しても取り合ってくれないからと、お子さんがご両親を連れて、私のところに相談に来るケースも増えてきました。お金の専門家だと思えば、素直に耳を傾ける方もいらっしゃいますからね。」
 
もし、家族や身近な人、あるいは自分自身が認知症になってしまったら──いずれは直面するかもしれない問題とは思いつつも、具体的に想像できない方が多かったかもしれません。参加した社員たちは、黒田さんの詳しい解説によって認知症に関する知識を得て、“もしも”の未来がやってきたときに心の準備ができるようになったのではないかと思います。
 
今回記事でご紹介した内容をもとに、自分自身や家族が認知症になった場合の対策を練ってみてはいかがでしょうか。

<クレジット>
取材/ライフネット生命公式note編集部
文/森脇早絵
撮影/村上悦子

<プロフィール>
黒田尚子(くろだ・なおこ) 1969年富山生まれ。立命館大学卒業後、1992年(株)日本総合研究所に入社。1998年、独立系FPに転身。現在は、各種セミナーや講演・講座の講師、新聞・書籍・雑誌・ウェブサイトへの執筆、個人相談等で幅広く活躍。2009年12月に乳がんに罹患し、以来「メディカルファイナンス」を大テーマとし、病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動も行っている。CFP® 1級ファイナンシャルプランニング技能士、CNJ認定 乳がん体験者コーディネーター、消費生活専門相談員資格を保有。
●黒田尚子FPオフィス