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親が病気になったら、子どもは経済的にも支えるべき?【FP黒田の人生相談】

今回の相談者さんは両親と同居している20代の独身女性。家族全員、健康に暮らしていますが、気になるのがこれからのことだとか。もし親が病気になってしまったらどうしよう。経済的に自分がすべて支えていく! と断言できるほどの自信もない。あれこれ考えていたら心配になってしまったという悩める相談者さんに、黒田先生がアドバイスします。

【相談】
私はいま27歳。会社員として働き、両親と同居している一人っ子の独身女性です。幸い、いまは両親ともに健康に過ごしていますが、最近、先のことが気になり始めました。親が病気になってしまったら、困ったときにはサポートしたいと思う一方で、経済的にはすべてを支えられる自信はありません。いまからしっかりと準備をしておいた方がいいとは思うものの、まだ何もしていません。お金のことなど、どこからどう手をつければいいでしょうか。いざというときに困らないために何をすればいいのか。黒田先生、教えてください! (27歳・女性)


親のために子どもができることは3つある


人は必ず年をとります。年をとれば体が弱くなったり、病気にかかったりすることは避けられません。でも、ご両親が元気なうちはなかなかそうしたシーンを想像できないですよね。

その点、相談者さんはいまから準備を考えているわけですからえらい! 心配しすぎるのも困りものですが、準備をすることはとても大切です。では何から始めたらいいのか、具体的にお話ししましょう。

親のために子どもができることは大きく分けて3つあります。1つ目は、「調べて聞いて参加する」こと。

親子でスマートフォンを見ているイメージ
画像はイメージです

「調べる」というのは、特に、医療保険や介護保険、年金保険や福祉サービスなど親や子どもが利用できそうな公的な制度に関して。年代を問わず、病気やケガなどで要介護状態になれば、ベースとなるのは公的な保障。まずは保障の内容やどんなサービスを受けられるのかについて確認しましょう。

医療費が高額になった場合の高額療養費制度は多くの人がご存じでしょうが、医療費と介護費の両方の負担金額が著しく高額になった場合には、高額介護合算療養費制度といって、さらに自己負担を軽減する仕組みも利用できます。
もし相談者さんがご両親を自分の扶養に入れているのであれば、会社の付加給付を受けられる場合もありますから、一度調べてみましょう。そして、調べた情報は必ずご両親と共有することです。

続いて、病気や入院に備えて、ご両親にあらかじめ必要な情報を「聞いておく」ことも大事です。
ご両親が加入している保険の保障内容や入院費はどこから捻出したらいいのか。事前に把握しておけば万が一のときにも慌てずに済みますよ。
最近私が見かけた高齢者向けの雑誌には、入院したときに家族に見てもらう情報を簡単にまとめられるノートが付録に付いていました。同様の内容の本も出ていますから、そうした出版物を参考にするのもいいですね。
お金についてご両親がどれぐらい備えているのかを詳しく聞くのが難しいようなら、「介護にはこれぐらいかかるらしい」と具体例を挙げて、親子で一緒にこの先について考える機会を持ってください。

心肺蘇生の実施についても、ご両親が元気なうちに確認しておくといいですね。エンディングノートには、延命措置をどうしたいか記入する欄が設けられているものがほとんどです。

なお、東京消防庁は2019年12月から、心肺蘇生の不実施(DNAR)ができる制度を導入しました。救急隊が「かかりつけ医等」に連絡し、必要な項目を確認できた場合には、心肺蘇生を中断して、「かかりつけ医等」または「家族等」に傷病者を引き継ぐことができるようになったんです。要は、自宅等で心肺停止状態に陥った際、蘇生措置を受けず最期を迎えたいと希望しても、救急隊は蘇生措置を実施せざるをえない。そんなケースがあることを踏まえた柔軟な対応です。

もうひとつの「参加する」というのは、高齢者に関わりの深い医療や介護に関するセミナーなどへの参加です。地域の病院や自治体が開催する市民講座など、無料で参加できるものがたくさんあります。お住まいの地域の広報誌などで案内していますからチェックしてみてはいかがでしょうか。
この「調べる」「聞く」「参加する」の3つの合わせ技で、万が一に備えておきましょう。

助け合える関係を作り頼れる場所を知っておこう


ご両親のためにやっておくべき2つ目は、親戚や近所の方、友人など、費用が発生することなく助け合える信頼関係を作っておくことです。

地域福祉を考える際には、「自助」「互助」「共助」「公助」の組み合わせが重要だと言われています。

自助は、自分のことは自分でやるということですし、共助は、介護保険や医療保険などのように制度化された相互扶助のこと。公助は、公的な行政支援のことです。そして、互助が、まさに家族や友人、仲間など、個人的な関係性を持つ人間同士が助け合い、それぞれが抱える問題や悩みをお互いが解決し合う力なのです。これらの活動が発展していくと、地域住民やNPO(非営利団体)などによる、ボランテイア活動やシステム化された支援活動となります。

今の日本の現状を考えると、共助や公助がさらに手厚くなるとは考えにくい。とはいっても、自助も限界がある。そこで、互助の出番というわけです。
相談者さんは、近所の方や兄弟、親戚などとは「お互いさまの関係」を作っていますか。例えば、日頃からお互いの近況を伝えあう旅行に行ったらお土産を持ってあいさつに行くとか、ちょっとしたことで構いません。良好な関係を維持しておきましょう。

私の場合、親は遠方に住んでいますが、定期的に手土産を持って近所のみなさんにあいさつにうかがっていますし、何かあったときのためにSNSでグループを作っています。
電話はハードルが高くなりますが、SNSであれば交換しやすいですからね。相手の時間を気にせず連絡できて、写真も送れる。既読がつくのも便利です。SNSを活用して、安心できる体制を築いておくことをおすすめします。

3つ目が、頼れる場所を作ること。自治体や病院、地域包括支援センター、社会福祉協議会など、どこでもよいのですが複数持っておけば安心です。
地域包括支援センターは地域住民の保健や福祉・医療の向上、介護予防マネジメントなどを総合的に行っている公的機関。わかりやすくいうと、高齢者やその家族といった、地域住民の介護・医療・保健・福祉などに関する「よろず相談所」です。そして、社会福祉協議会とは地域の社会福祉を専門に行う民間の福祉団体です。
どちらも、高齢者の介護や福祉には欠かせない機関ですから、相談できる場所として接点を持っておいてくださいね。

介護に必要なのはお金とマンパワーとリテラシー


相談者さんは、ご両親に何かがあったときに経済的に支えられる自信がないとのことですが、それは当然です。親の介護については、親の財産でまかなうのが基本です。

一般的に、今の子ども世代よりも親世代の方が財産をもっている可能性が高いこと。そして、子ども世代に経済的援助をする余裕はあまりないことがその理由です。
それに、いったん援助をしてしまうと、親もそれをあてにするようになります。でも、援助はいつまで続くかわかりません。実際、20代で、お父さまの介護費用を援助したら、半年以上経つと経済的に苦しくなってきて……なんていう状況に陥った方もいます。
もし援助をするなら、それを続ける覚悟と経済的な余裕が本当にあるのか、自問してみましょう。

親の介護に必要なのは、お金とマンパワーとリテラシー。すべて揃っていれば最強ですが、現実には難しい。お金がないのであれば、情報を得て、できるだけ公的なものでやりくりし、足りないところはマンパワーで補いましょう。お金がなくても、親の代わりに情報を得ることはできます。リテラシーもマンパワーもないのであればお金に頼るしかありません。

一番いけないのが、なんとかなるだろうと思って何もしないこと。これは最悪のパターンです。現実はそう甘くありません。なんとかならなくなるときだって、ありますからね。過剰に心配することはないですが、リテラシーを高めて、頼れる人や相談できる先は作っておきたいですね。

くれぐれも介護は自分ひとりでやろうと思わないことです。ほとんどの親御さんは子どもに負担をかけたくないと思っています。困ったときには何ができるのか、どんなサービスや保険が使えるのかを知っておき、「お互いさまの関係」を作って、いざというときにできるだけ慌てずに済む体制を準備しておくことを心がけてくださいね。

<クレジット>
取材/ライフネットジャーナル オンライン 編集部
文/三田村蕗子
撮影/村上悦子

<プロフィール>
黒田尚子(くろだ・なおこ) 1969年富山生まれ。立命館大学卒業後、1992年(株)日本総合研究所に入社。1998年、独立系FPに転身。現在は、各種セミナーや講演・講座の講師、新聞・書籍・雑誌・ウェブサイトへの執筆、個人相談等で幅広く活躍。2009年12月に乳がんに罹患し、以来「メディカルファイナンス」を大テーマとし、病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動も行っている。CFP® 1級ファイナンシャルプランニング技能士、CNJ認定 乳がん体験者コーディネーター、消費生活専門相談員資格を保有。

●黒田尚子FP オフィス

※こちらの記事は、ライフネット生命のオウンドメディアに過去掲載されていたものの再掲です。

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