事実婚、別居婚……さまざまな結婚の形、メリット・デメリットは?【FP黒田の人生相談】
厚生労働省「令和5年(2023)人口動態統計月報年計(概数)の概況」によると、日本人の婚姻件数は47万4,717組、婚姻率(人口1,000人に対する婚姻件数の割合)は3.9です。婚姻率は年々、減少傾向にあります。
日本人の結婚観や夫婦の形態が変わりつつある今、別居婚や事実婚について知っておきたいという相談を寄せてくれたのは、28歳の女性。法律婚とどう違うのか、もし離婚という場合には何に気をつけておくべきなのか。黒田先生が「今どきのケッコン」事情を踏まえてお答えします。
事実婚ならではのメリット
結婚といっても、今は複数の選択肢がある時代。それぞれのメリットやデメリットについて知っておくのは非常に良いことだと思います。
ご相談者さんが挙げている「法律婚」は、婚姻届を提出し、法律上の手続きをして関係を結んでいる形のこと。「別居婚」は、法律婚をしているけれど、住居だけは別というもの。「事実婚」は、婚姻の意思があり、事実上も生活を共にしているけれど、婚姻届は提出していない形のことです。
まずは事実婚についてお話ししましょう。事実婚だと改姓をする必要がありませんから、職場でも結婚前と同じ名字で仕事ができます。旧姓のままで仕事ができる職場もありますが、全てではありません。今まで通りの名前で仕事ができるのは、場合によっては大きなメリットではないでしょうか。
それに、姓が変わると手続きが山ほどあるんですよ。保険、年金、免許、パスポート、クレジットカード……。これらをこなすのは、なかなか時間と手間のかかる作業です。
対等なパートナーシップを築きやすく、もし別れることになった場合にも、離婚に伴った改姓などの手続きは必要ありません。戸籍にも影響がないことは、事実婚ならではのメリットだと思います。
子どもを持つなら知っておきたい、事実婚のデメリット
しかし、事実婚にはデメリットもあります。
日本人の結婚観が変わってきているといっても、どうして籍を入れないのかと不思議に思われることもあります。理解を得られない場面に多く遭遇する可能性もあるでしょう。
また、事実婚の場合、税制上の恩恵を受けられません。対象が法律婚の関係にある者に限定されているからです。所得税や相続税、贈与税の配偶者控除の適用から外れてしまいます。
ただ、社会保険に関しては、事実婚の関係であっても、一定の要件を満たせば遺族年金などを受け取ることができます。
生命保険についても注意が必要です。ライフネット生命の場合は、事実婚であっても一定の条件のもと、受取人になることができます。保険会社によって条件が違うことは知っておいた方がいいでしょう。
とりわけ大きなデメリットは子ども関係です。事実婚の夫婦の間に子どもが産まれた後は、さまざまな手続きが必要になることも。現状の法律では、母親の姓を名乗ることになっており、戸籍も父親とは別になります。そのため、「子どもに父親の姓を名乗らせたい」とか「共同親権を持ちたい」といった場合には、届出が必要になるのです。
事実婚をしていても、子どもができたら法律婚に移行するというカップルがいるのは、こういった、子どもが産まれたときの社会的な不利益がまだまだ日本には多いためではないでしょうか。
別居婚で感じた相手の存在の大切さ
別居婚はどうでしょうか。法律婚で住居だけは別という別居婚は、事実婚のような税制面などのデメリットはありません。最近では、「週末婚」や「通い婚」など、実践しているカップルもいるようです。
私も、実家の事情で2年ほど故郷に戻り、遠距離の別居婚をしていたことがありました。家事も軽減できるし、自分の時間を大事にできてストレスフリー。離れていたおかげで相手の存在の大切さを実感できるという得難いメリットもありました。
ただし、生活費がダブルで発生するのはデメリット。所得が夫婦間で非対称だと、一方がつらいかもしれません。離れている時間が多く、根本的な信頼関係がないと続けるのが難しい形態だと思いますが、信頼関係がしっかり結ばれていて、いろいろな条件をクリアできるのであれば、選択肢の一つになるかもしれません。
例えば、子どもが巣立った後は別居婚の形を取って、会いたいときに会うという関係もいい。お互いを尊重しあえる良さがあると思います。
さあ、相談者さんは結婚するならば、どの形を選びますか? それぞれのメリット・デメリットをじっくり考えてみてくださいね。
離婚を決めたらこれだけは忘れずに
離婚の際の手続きについてもお話ししておきましょう。
もう離婚しかないと決断したら、まずは離婚後の住まいをどうするかについて考えてください。子どもがいるなら親権や養育費、面会権も検討事項です。決めた内容は念のためにしっかりと公正証書で残すことをおすすめします。
夫婦の財産分与や生活費についても忘れずに考えましょう。どうやって生活していくのか。仕事はどうするのか。早めに準備をしておくと安心です。子どもがいるときは、ひとり親の方に向けてさまざまな助成金があるので、こうした情報のチェックも忘れずに。
配偶者の近くにいる人に連絡を取れるようにしておくのもいいですね。養育費の問題で相手に連絡を取りたいのに、連絡を取るすべがない! という事態を防ぐためです。このほかにも、保険を見直す、離婚の経験者など相談できる先を確保しておく……など、やることはたくさんありますよ。
これから結婚を考えている相談者さんに離婚の話をしてしまいましたが、備えておけることは知っておいてくださいね。
最後に、結婚生活20年になる、私自身の夫婦円満の秘訣を紹介したいと思います。
一番大事なのは「何事も‘お互い様’の気持ちを持つこと」です。それに、相手に過剰な期待をするのも禁物です。結婚当初は、夫婦共働きで、お互い忙しいのに、家事や育児をまったくやってくれなくて不満が募るばかりでした。でも、相手が「やってくれない」と思うと余計イライラしてしまいます。
そこで、発想を逆転させ、「やってくれたこと」にだけ目を向け、その都度、ちゃんと感謝の意を伝えるようにしたのです。相手も、「〇〇してくれて、ありがとう」「いつも、〇〇してくれて助かってる」などと言われると、きっとうれしいですよね。さらに、お願いをするときは「テレビを観てるところ、悪いんだけど……」「ちょっと今、いいかな」など、クッション言葉を添えると、効果は絶大です。
もちろん、私も内心は面倒くさいと思っていました。でも、私の場合は、ここは‘家庭’という名の職場である、と考えることにしました。相手を仕事仲間だと思えば、業務を円滑に遂行するためにも、配慮や気遣いの言葉が出てきますよね。
これを繰り返していると、そのうち、こちらがお願いしなくても、自分から進んでやってくれるようになりました。そして、この効果は、夫だけでなく、子どもにも影響を与えたようで、小学生くらいから、「お母さん、〇〇してくれて、いつもありがとう」と毎日言ってくれます。
「気負わず、構えず」──結婚はタイミングですが、難しいのは、結婚生活を持続させることです。問題が起きれば、その都度、柔軟に対応していけば大丈夫です。
<クレジット>
取材/ライフネット生命公式note編集部
文/三田村蕗子
撮影/村上悦子