月末に退職するとお得って本当!? ~月末1日前退職の落とし穴!
社会保険労務士(社労士)でもあるファイナンシャル・プランナーの中村薫先生が教えてくれる「だれも教えてくれなかった社会保障」シリーズ。
今回は、会社を退職するタイミングについてです。仕事の引き継ぎや新しい職場探しなど、なにかと忙しくなる退職前。退職日によって変わる社会保険料のこと、中村先生に教えてもらいましょう!
会社に退職日を告げたら、会社から「月末ではなく1日前のほうが手取りが増えるよ」と言われ、得な気がして「1日前にした♪」と嬉しそうにご報告いただくことがあります。
が、ちょっと待って!! それ、実は損かもしれないので要注意です!
結局、月末に退職すると損なの? 得なの? どっち?
手取りが増えるなら得な気がしますが、基本は「損」です。
なぜなら、一瞬手取りが増えたとしても、別のところで負担が増えていたり、将来もらえる年金が減ったりするため、総合的・長期的には損をすると言えるからです。
まず「別の負担が増える」件。
月末の1日前(に限らず、月末以外)に退職すると手取りが増えるのは、社会保険料の負担が1ヶ月分で済むからです。逆に月の末日に辞めると、仕組み上2ヶ月分の社会保険料が給与から天引きされるため、手取りが減ってしまうように見えます。
ただ、社会保険料は基本的には各月分の支払いが必要なものです。
退職したからといって社会保険料を支払わなくてよいわけではないため、退職後は自分でなんらかの制度に加入して社会保険料を支払わなければいけません。つまり、給与天引きで払うか、退職後に自分で貯蓄等から払うかの違い、ということです。
図1・図2は、緑色が会社で社会保険に入っている期間、黄色が退職して自分で社会保険料を払う期間を表しています。
例1:月末日退職の場合
月末日に退職すると、図1のように9月のお給料から8月分+9月分の社会保険料が引かれます。10月以降は国民健康保険料と国民年金保険料を各期限までに自分で払いますが、10月にいきなりすべての支払いが必要なのではなく、実質負担は翌月あたりからになりますから、10月は少し楽なはずです。
例2:月末1日前など、月中退職の場合
月の途中で退職すると、その月は会社の社会保険ではなく、国民健康保険や国民年金になります(図2)。そのため、緑色の8月分は通常通り9月の給与から引かれますが、9月分は引かれません。一方、黄色の9月分は10月など所定の納付期限までに自分で払う必要があるため、いずれにしても保険料の負担がかかるわけです。
社会保険料は会社に払ってもらったほうが得~保険料編~
「別の負担が増える」件、まだ続きます。
緑色でも黄色でも、いずれにしろ各月分の保険料支払いが避けられないなら、負担が軽いほうがいいですよね。
また、仮に少々負担が重くても、メリットがあるなら高いほうを選択するかもしれません。
(1)会社の社会保険について、保険料面のメリット・デメリット
会社の社会保険の最大のメリットは、会社も保険料を半分負担してくれている点です。
それに加えて、健康保険は、扶養している配偶者や子などがいても、追加負担無しで家族の保障が得られるのもメリットです。
会社の社会保険のデメリットは、会社員でなければ加入できない点、お給料によっては国民健康保険等よりも保険料が高くなる点があげられます。
(2)国民健康保険等のメリット・デメリット
保険料面のメリットは、国民健康保険は会社都合による退職の場合は負担を軽くしてくれる可能性がある点です(制度が使えるかは自治体により異なります)。自己都合退職では負担が軽くならないのが難点ですが、あらかじめ住んでいる地域の役所へ行き「今度退職する予定ですが、国民健康保険料と国民年金保険料はどうなりますか?」と尋ねて、退職後の保険料額を確認してください。
国民年金は、会社都合に限らず、退職して収入がないなど一定の条件を満たすと、保険料の免除を受けられる可能性があります。ただ、免除を受ける=もらえる年金額が乏しくなる……というだけなので、免除を受けるのが一概に良いといえるかは疑問です。
というわけで、国民健康保険や国民年金の保険料には軽減策がありますが、だからといって保険料が安く収まるかはわかりません。
最大のデメリットは、国民健康保険等は自分で全額保険料を負担する必要がある点です(会社が半分持ってくれる制度はありません)。
また、「扶養だから保険料を払わなくてよい」とはなりません。配偶者や子などがいる場合は、それぞれに保険料がかかります。会社員のときは負担を感じなかった家族の保険料がドンと乗ってくる現実があります。
ということで、退職前に国民健康保険等の保険料を確認し、会社の社会保険料よりも高いようなら、月末日退職にして会社に保険料を半分払ってもらったほうが得ではないでしょうか。
社会保険料は会社に払ってもらったほうが得~もらえる額編~
続いては、「もらえる年金が減る」件について解説します。
厚生年金保険は、給与に応じた年金に加えて国民年金も受け取れるダブル給付がありますから、自営業者など国民年金だけの人よりも受給額が多いのがメリットです。
年金額は基本的にはその制度に入っていた月数が多ければ多いほど増えます。月末日の1日前に退職すると、本来であれば積み上げられたはずの月数が1ヶ月欠ける=将来の年金が減るデメリットがあるのです。
もう一つ忘れたくないのが、障害厚生年金や遺族厚生年金の権利を取りこぼす可能性がある点です。
最後の1ヶ月を節約する気持ちで月末の1日前退職にしてしまった場合、その月の保険料を払っていない点に気づかず、翌月分から国民年金を払い、退職月が空白になってしまう可能性があります。
具体的には、上の「例2」の9月分が空白になることが心配です(うっかり屋さんは本当に気を付けてくださいね)。保険料納付期間に空白があると、障害年金や遺族年金を受け取れない場合があるのです……!
特に気を付けてほしいのは、離職・転職を何度か繰り返し、人生の中に会社員ではない期間がしばらくある方です。
「少ししたら再就職するからそれまではいっかー」と国民年金の手続きをスルーしていたりすると、空白が長くなってしまいがちです。
たとえ年齢が若くても年金を受け取れることがあるのに、しかもそれはとても困ったときの障害年金や遺族年金という素晴らしいものなのに、その最後の砦のカギを自ら捨てることのないよう気を付けてくださいね。
月末1日前の退職が“アリ”なのはこんな人
最後に、まとめてみましょう。
月末日退職にすると、会社の社会保険に加入することになり、健康保険や厚生年金保険のメリットを享受できる反面、保険料が最後の給与から2ヶ月分引かれるため、ちょっと手取りが減るデメリットがあります。
一方、月末の1日前退職にすると、最後の給与から引かれる額は軽く済みますが、実際には、単に自分で役所に払う月が1ヶ月増えるうえ、家族がいるとその分も実質負担増となるため、トータルでは会社に払ってもらったほうが得じゃない? というオチになりました。
とはいえ、月末1日前の退職がアリな方もいます。
例えば、
ただ、(再就職が決まっている方以外は)月末1日前退職にする場合、障害年金や遺族年金等のデメリットがあるため退職後の国民年金手続きを忘れないようご注意を。
※国民健康保険料は自治体や支払い方法によって期限や納付回数が異なります。詳細はお住まいの地域の役所で確認しましょう。
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<クレジット>
文/中村 薫