傷病手当金を受給しているときに気をつけたいこと①
社会保険労務士(社労士)でファイナンシャル・プランナーの中村薫先生の「だれも教えてくれなかった社会保障」シリーズ。今回は、病気やケガで働けないときに申請ができる傷病手当金と、その他の手当の関係について教えていただきます!
傷病手当金とは、病気やケガで休業をしているとき、給与のおよそ3分の2が受け取れる公的な制度です。対象となるのは、基本的には会社員や公務員の方です。(詳しくはこちらのコラムをご覧ください)
今回は出産手当金や年金など、他の給付がある場合について掘り下げてみましょう。
※この記事に掲載したケース以外にも、国や自治体が認めた場合に、特別に傷病手当金が受け取れることもあります。
※専門的な用語をできるだけわかりやすい用語に置き換えています。また、ざっくりとイメージをつかめるよう簡略な説明となっているため、すべての要件や制度の詳細まで触れていません。気になったときは加入している健康保険のサイトなどをチェックしてみてくださいね。
出産手当金も受け取れる場合は、出産手当金が優先
女性が出産する際、法律上は産前と産後に仕事を休むことができます。
出産によって仕事ができないときに、給与が出ない状態では困りますから、健康保険から「出産手当金」を受け取れます。これは、産前と産後の決められた期間中に、会社を休んだ日数に応じて給付されるものです。
そのため、傷病手当金を受け取っている期間と、出産手当金の対象となる期間が重なるケースもあります。その場合は出産手当金が優先され、傷病手当金は給付が止まります。
出産手当金の額の方が少ない場合は、その差額分の傷病手当金を受け取ることになります。
公的年金や労災から給付を受け取れるときは
公的年金には若くても受け取れる「障害年金」や「遺族年金」、老後に受け取れる「老齢年金」があります。傷病手当金とそれぞれの年金が給付される期間と重なった場合は、年金によって優先される給付が違います。
年金と傷病手当金が同時に受け取れるときはどちらが優先?
1. 障害厚生年金と傷病手当金の場合
傷病手当金と同じ病気やケガが原因の場合は、障害厚生年金のほうが優先されます。
もしも傷病手当金の受給期間と重なっていたら、年金の給付が始まった後で、それまでに受け取った傷病手当金を返還する必要があります。忘れないように注意しましょう。
※もし障害厚生年金額を日額に換算したとき、年金のほうが少なければ、差額分の傷病手当金を受け取れます。年金を受け取ったほうが損をする(傷病手当金を下回る)ことはないので安心してください。
2. 遺族年金と傷病手当金の場合
両方受け取ることができます。傷病手当金と遺族年金は給付の基準が違いますから、どちらかが止まることはありません。
3. 老齢厚生年金と傷病手当金の場合
老齢厚生年金が優先されます。ただ、1.の障害厚生年金と同じく、傷病手当金を受け取っていたときは返還が必要です。日額換算したとき、不利になることはありません。
◆労災保険が受けられるときはどちらが優先?
労災保険(労働者災害補償保険)は、業務上の病気やケガをした場合の休業補償給付です。基本的には傷病手当金と同時に受け取ることはできません。
こちらも、日額計算したときに傷病手当金の方が受け取れる金額が多い場合は、差額を受け取れますから、不利になることはありません。
該当するかどうか気になったときは、加入している健康保険(協会けんぽや健保組合)のウェブサイトを確認したり、電話したりして相談してみると良いでしょう。
<クレジット>
●なごみFP・社労士事務所 中村薫