将来受け取れるお金は減るの? 育休・産休中の社会保険料の免除と「みなし措置」を解説!
社会保険労務士(社労士)でもあるファイナンシャル・プランナーの中村薫先生が教えてくれる「だれも教えてくれなかった社会保障」シリーズ。前回に続き、社会保険料にまつわるお話を伺いました。
お仕事をしている中で、出産や育児、病気やケガでお休みをすることもあるでしょう。そうしたときにも社会保険料は通常どおり支払わないといけないのか? その疑問に、中村先生がお答えします!
※専門的な用語をできるだけわかりやすい用語に置き換えています。また、詳細な説明を省略しているため、すべての要件まで触れていません。
※当記事では、2023年12月時点の制度をご紹介しています。
*前回はこちら↓
産休や育休を取っている間は保険料の負担が免除される
──これから子育てが始まる方の場合、出産前後や子育て中の社会保険料の負担が気になると思います。そのような大変なタイミングでも、社会保険料は支払わないといけないのでしょうか。
中村:育休や産休期間中は、健康保険と厚生年金の保険料が免除されます。しかし本来は、保険料の支払総額が減ってしまうと、老齢年金や障害年金、遺族年金といった受け取れる給付の金額も減ってしまいます。国の制度である産休・育休なのにそうなると不公平に感じますよね。
そこで、保険料免除期間中だとしても元々の給与が30万円だった人ならば、その期間中はそれに応じた等級の保険料を支払っていたとみなされます。「この制度を活用して、安心して育休を取ってくださいね」と、そういう仕組みになっているんです。
また、育休が終わった後、会社に復帰しても以前のようにフルタイムで働けない、働きにくい、ということもあるでしょう。子どもが3歳になるまでの育児をしている期間、これを社会保険では「養育期間」と定義しています。この期間中は、「養育期間の従前報酬月額のみなし措置」というものもあります。
例えば16時までの就業で給与が25万円に下がったとしても、育休前の給与が30万円だったら、その養育期間中も給与は30万円として保険料を支払ったことにするよ、となるのです。
──給与が下がって支払う社会保険料が減ると、将来受け取る年金も減ってしまうから、ということですね。
中村:はい。もちろん、実際の給与から天引きされる社会保険料は、給与は25万円として計算された金額です。
──給与が30万円とみなされたからといって、保険料が上がるわけではないんですね。
中村:このように、出産後の育児などで大変なときの助けになる措置もあるので、知っておくと安心感があると思います。みなし措置を受けるには、被保険者からの申し出が必要ですので、お忘れなく。
病気や出産のときにいくら受け取れる? 社会保険料の支払い額との関係
──支払う保険料と受け取る給付の額の関係について、もう少し詳しく伺いたいです。
中村:もしものときにもらえる給付の額は、確かに気になるポイントですよね。育休や病気・ケガで休んだときにもらえる給付の額は、標準報酬月額が関係しています。標準報酬月額は、社会保険料などの算出に使われる、月々の給与が平均でどれくらいかを表す等級のことです。
病気やケガで休業をして傷病手当金をもらうことになると、その1年前までさかのぼって、全部の標準報酬月額の合計を12分の1にして平均した額が傷病手当金のベースになります。
中村:自分の給与は月30万円だから1日あたりの給与は1万円になる、それを3分の2にするから傷病手当金として受け取れる日額は約6,600円になる、ということですね。
また、健康保険の出産手当金のベースも傷病手当金と同様の方法で決められています。給与から天引きされている分、何かあったときにいくら受け取れるか協会けんぽなど健康保険のサイトを参考にして、一度計算してみるといいかもしれません。
医療費の負担を軽減できる「高額療養費制度」の基準にも標準報酬月額が関係する
中村:次はもらえるお金の話ではなく、医療費負担を軽減できる高額療養費制度に触れておきましょう。
この制度では1ヶ月に一定額以上の高額な医療費がかかった場合、その一定額以上の部分を返還してもらえます。そしてその「一定額」は標準報酬月額をもとに決められています。
標準報酬月額は基本的に9月から変わります。なので、去年よりも今年の給与のほうが高く、9月から等級が大幅に上がり「一定額」の区分が上がりそうだという自覚がある人の場合、8月までに入院するほうが医療費の負担額を抑えられる可能性もあるでしょう。また、その逆のケースも考えられますね。
年金へ加入したばかりでも年金給付を受け取れるの?
──ここまでは主に健康保険にまつわるお話を伺ってきました。社会保険料の大部分を占めるうちのもうひとつ、年金保険についても解説をお願いいたします。
中村:そうですね、年金を受け取る話もしていきましょう。年金給付には、国民年金から出るものと厚生年金から出るものがあります。そしてそれぞれの給付には、老齢・障害・遺族の3種類があります。原則として20歳以降から、受け取りのタイミングが来るまでの加入期間などを踏まえて給付が行われる仕組みです。
厚生年金の金額は加入期間と標準報酬月額の2つの軸で考えます。加入期間が長ければ受け取れる額が多くなりますし、報酬が高くても同様です。
ただし、公的保険制度ならではの例外もあります。例えば、20歳から会社勤めで働いていた人が23歳で何らかの理由で障害厚生年金の受給を開始することになった場合、その給付のベースとなるのは3年分の報酬しかありません。また、職歴が浅い分、給与が低いかもしれませんので、そのままだと受け取れる年金額も少なくなってしまいます。このように、厚生年金の加入期間が短かった人は、25年加入していたとみなして厚生年金額を計算して、給付を受け取れます。
──産休や育休時は社会保険料が免除されたり、育休明けに一時的に給与が低かった場合はみなし措置が取られたり、障害年金受給のときには加入期間を加算してくれたり……。負担と受給のそれぞれに配慮があるのですね。社会保険料が標準報酬月額から決まるからといって、働き方を焦って調整することはないということでしょうか。
中村:そうです。社会保険料が負担に感じられるという人も多いでしょう。ですが、保険料を抑えると困ったときに助けてくれる給付もその分少なくなります。保障の大きさと保険料額が比例するのは、民間の生命保険と同じですね。
大きい給与の人はそれに見合った負担に、少ない給与の人はそれに見合った負担に、というように、負担感がなるべく平等になるよう調整されています。
ただ、給与額の大きい人は年金面で少し注意が必要な点もあります。こちらの保険料額表を見てください。
令和5年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表(東京都)
中村:この保険料額表を見ると、35級まではカッコつきの数字が併記してありますね。カッコが付いている数字は、厚生年金の等級になります。これを見ると、健康保険に比べて厚生年金は等級の幅が狭いことがわかります。
厚生年金の等級の最高値・32級は、標準報酬月額が65万円、月々の給与が63万5千円以上の人が対象の等級になります。健康保険の場合は標準報酬月額130万円台など、より大きな金額での等級も設定されていますが、厚生年金だと上限額まで……つまり、給与が100万円でも200万円でも、給与が65万円までの人と同程度の保険料しか引かれません。そして、受け取れる年金給付は等級に見合った分しか出ないのです。そうなると、現役時代と老後の生活とでギャップが出てしまうかもしれません。
現役時代の給与が高かった人にとっては、年金の給付額が少なく見える可能性があり、そこから老後の備えが足りないという心配が出てきます。そうしたギャップの部分を、自分でiDeCo等を利用して資産形成し、頑張ってまかなえるようにしよう、というのが最近の流れですね。
──困ったときに助けてくれる措置もあるけれど、やはり自分での備えもしっかりしておくことが重要なんですね。中村先生、本日はありがとうございました。
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<クレジット>
取材/ライフネット生命公式note編集部
文/年永亜美(ライフネット生命公式note編集部)
撮影/村上悦子