共働き家庭の保険の選び方は?【FP黒田の人生相談】
内閣府「男女共同参画白書(令和6年版)」によると、共働き家庭が年々増えています。夫婦ともにフルタイム勤務の正社員で、お互いにそれなりの収入がある。今回はそうしたご家庭から保険に関する質問が寄せられました。保険契約時に男性に大きな保障をかける傾向に疑問があるという相談者さん。共働き家庭はどのように考えて家計を整え、どんな保険を選んだらいいのでしょうか。黒田先生の明晰な回答をご覧ください。
死亡リスクよりも生存リスクを重視する傾向に
相談者さんにふさわしい保険の選び方や家計のやりくりについてアドバイスする前に、まず最近の保険のトレンドについてお話しさせてください。
ここ数年、死亡リスクよりも生存リスクを重視して保険を選ぶ傾向が高まっていることをご存じですか。(公財)生命保険文化センターが実施した「令和4年度 生活保障に関する調査」によれば、生活保障に対する不安の割合として最も高いのは介護保障。次いで、医療保障、老後保障がが続きます。死亡保障はその次です。
生きている間の医療や介護、老後保障を心配するのは、おそらく「死亡リスク」よりも「長生きリスク」を重視していることの現れでしょう。その理由の一つは相談者さんのような共働き家庭が増えたこと。仮に大黒柱が亡くなっても、遺族である配偶者の収入があると考えられるからではないでしょうか。
医療の進歩も背景にあります。昔に比べ、がんや脳卒中など重い病気にかかっても、命が助かるケースがぐんと増えています。でも、長生きをすれば、治療期間が長引き、再発したり重症化したりすることもあり、それだけ医療費がかかります。働けなくなる事態も心配です。保険に関しては生存リスクに備えようというトレンドが高まっているのはそのためです。
保険や預貯金はライフプランありき
こうしたトレンドを知った上で、適切な保険を考えていきましょう。ぜひとも理解していただきたいのが、「保険や預貯金はライフプランありき」ということです。どんな保険が適正なのかは個々のライフプランやライフステージによって変わります。相談者さんはまず、ご自分の今後、ご家庭のこれからについてのライフイベントを洗い出してみましょう。
家を購入するというイベントを描いているかもしれませんし、小学生のお子さんが大きくなったら、車を買い換える必要が出てくるかもしれません。今後、お子さんに必要な教育資金も増えていきます。進学先によっても必要なお金の額はまったく違ってくるんですよ。
ご家族で海外旅行に行きたいと考えるならそのための預貯金も欠かせません。このようにライフプランを一度しっかりと描き、それに伴ってお金がどれぐらいかかりそうなのかを考える機会を設けてください。
数年後に家を購入するというのであれば、頭金は物件価格の最低20%は用意したいところ。諸費用を含めると30%の自己資金は確保しておきましょう。頭金0円で購入するご家庭もありますが、ローンは借りられる額より返せる額をよく検討することが大切です。何年後に家を買うのか。そのプランによって毎月の貯蓄額が決まってきます。
また、多くの場合、住宅ローンを組んだら団体信用生命保険に加入することになります。たとえば夫が加入した場合、夫が死亡したら残りの住宅ローン負担がなくなるのが通常のパターンです。でも、夫婦それぞれに収入があって住宅ローンを夫婦で返済するのであれば、妻も保険に入り、死亡保障をつけた方がいいですよね。夫婦のどちらかが亡くなったり働けなくなったりする。家を買う際にはそんなケースの想定も欠かせないのです。
預貯金か保険かではなく、預貯金も保険も
さて、ライフプランを描いてみて、そのプランをかなえるために必要な資金を考えていくと、とうてい保険料を捻出できそうにない──。これは非常によくあるケースです。
だからといってリスクがなくなるわけではなりません。病気になったり働けなくなったりという事態が絶対起きないとは限らない。ではどうすればいいのでしょうか。
日本人は、どうも預貯金か保険かの二者択一で考える傾向が強いようですが、それは賢いとは言えません。どちらかに偏るのではなく、預貯金と保険のバランスを考えましょう。大切なのは「預貯金も保険も」というスタンス。両方でライフプランやリスクに備えるべきです。
保険は一度入ったらずっと入り続けなければならないわけではありません。保障が必要な期間に必要な額だけ入ればいいのです。ライフステージによって必要な保険も加入期間も金額も違ってくる。ライフステージに応じて、保障を見直すのが合理的な保険の入り方なのです。
ただし、保障のベースは公的制度です。医療保険、年金保険など、ご自身が加入している社会保険について確認してみましょう。また、会社員なら自分の会社にどのような制度があるのか、付加給付や団体保険、グループ保険、福利厚生の具体的な内容について確認しましょう。民間の保険の加入を検討するのはそれからです。
一般的な、子どもがいる共働きファミリーに必要な保険は、夫婦それぞれ、病気になったときに備える「医療保険」や長期間働けなくなったときの収入減少に備える「就業不能保険」をおすすめします。
とくに、後者は、配偶者の一方が病気やケガで長期間働けなくなった場合、医療費だけでなく生活費を一人分の収入でまかなうのはかなり難しいという観点から重要です。
がんにかかるのが不安なら、「がん保険」も加入を検討してみましょう。30代のがん罹患率はまだまだ低いとはいえ、女性は30代後半から40代にかけて、子宮頸がんや乳がんのリスクが高まります。
死亡保障については、夫婦間で収入格差がなく、お互い生活に困らないだけの収入があるのなら、大きな死亡保障は必要ありません。ただ、お子さんがまだ小さく、これから教育費がかかるようなら、「定期保険」でまとまった教育費負担に備えるのも一手です。
30代は資産形成期
相談者さんは、家事の外注化(アウトソーシング)をご検討されているとのこと。その分、ストレスから解放されて、お互い仕事に専念できて収入アップにつながるのなら、悪くない考えですよね。最近では、割安な家事代行サービスを提供する会社も出てきました。
ただし、ちょっと待って。本当に、それは今必要なものでしょうか。
30代は資産形成期。いまは40代、50代でも金融資産がないという”貯蓄ゼロ世帯”が約3割います。ここでいう金融資産とは、「預貯金や株式などの金融商品をいずれも保有していない」、あるいは「預貯金はあるがその中で運用または将来の備えがゼロ」の世帯のこと。したがって、まったく預貯金がないわけではありませんが、それでも驚きです。
相談者さんがそうならないためにも、30代のいまから計画的に資産形成をしていただきたいのです。
夫婦そろってある程度収入があるご家庭ほど、支出も膨らみがちになります。家事のアウトソーシングも良いでしょうが、その分、他の支出を節約する必要があります。
たとえば、掃除できない、片付かないのは、家にモノがあふれているからだった……なんてことはありませんか。不要なモノを整理すれば、掃除の手間ヒマも節約できます。毎日の食事の支度も、週末に買い物をまとめて、下ごしらえだけ済ませておけば、何とか乗り切れることだって、あるかもしれません。
着実に資産を殖やしていきたいなら、収入が増えても、支出はふくらまないようにすること。でも、節約ばかりだとストレスがたまるので、何かを優先させたいなら、他の支出はガマンして、家計にメリハリを持たせるのがコツです。
いずれにせよ、保険や金融商品になじみがないまま定年退職して、本格的な年金生活に突入。自分のニーズに合わない情報やサービスに踊らされて、退職金や蓄えていた預貯金をすべてふいにしてしまった。そんな事例は珍しくないのです。
取返しのつかないトラブルに陥らないためにも、保険や株式などの金融商品を使いこなす「金融リテラシー」を身に着けていきましょう。金融機関やファイナンシャルプランナー(FP)などが主催する無料セミナーに参加しても良いですし、保険や投資に関する書籍や雑誌の特集などで勉強するのも一つです。
20代、30代はそうしたトレーニングに踏みだす最初のステップ。情報を精査して、もしわからないようならば信頼できるFPなど専門家の力を借りるのもいいですね。
雑誌を見ると「あなた向きの保険や金融商品はこれ」といったマトリックスが出ていますが、鵜呑みにしてはダメ。あくまで参考程度にとどめ、自分たちはどのようなライフプランを描き、そのためには何が必要なのかを主体的に考え、常に自分に問うていってください。
<クレジット>
取材/ライフネットジャーナル オンライン 編集部
文/三田村蕗子
撮影/村上悦子