他人の健康保険証を借りて病院を受診しても違法じゃないよね?…ってちょっと待って!
社会保険労務士(社労士)でもあるファイナンシャル・プランナーの中村薫先生が教えてくれる「だれも教えてくれなかった社会保障」シリーズ。今回は、病院に行きたいのに健康保険証がない! そんなときにやってはいけないことについて、薫先生に教えてもらいましょう!
旅行先などで具合が悪くなり健康保険証(以下、保険証)がなくて困っているときに、友達などから「貸してあげるよ」と言われたら、もしかしたら借りたくなってしまうかもしれませんよね。
でも、ちょっと待ってください。法律的には、どうなんでしょう?
実は貸す方も借りる方も、軽く考えたらマズイかもしれません。
今回は、保険証を借りてもいいものなのか? そして、もし忘れてしまった場合はどうしたら良いのか? といった注意点と対策を紹介します。
他人の健康保険証を借りて受診したら〇〇罪です!
はい。では直球でお答えします。
他人の保険証を使って病院などの医療機関(以下、病院)で治療等を受けたら、厳密に言えば「詐欺罪」です!!
物の貸し借りとは違って、犯罪になってしまうのですから、軽く考えてはいけません。
なぜ詐欺なのかというと(言葉が強くてごめんなさい)、ウソをついて金銭的メリットを得ていることになるからです。
つまり、保険証がなかった場合は、病院の窓口で医療費を精算するとき保険が効かないため、高額な医療費を払うことになるでしょう。例えばちょっとした診察でも1万円とか2万円とか、処置や薬なども含めるとかなりの額になるかもしれません。
保険証があれば、(公的医療保険制度の範囲内であれば)基本的に自己負担は3割に抑えられます。この、保険証を提示することで享受できる「7割の値引き(ちょっと違いますがイメージとして)」が金銭的メリットです。
ホントなら全額自腹だったものを、ウソをついて(他人になりすまして)、軽い負担で済まそうとしたね? ということで犯罪になるわけです。
コピーならどう? スマホの写真で見せればOK?
昔は扶養家族全員が載った保険証1枚を、家族で使っていた時代もありました。
その頃は、修学旅行の持ち物一覧に「保険証のコピーを持ってくること」なんて書かれていませんでしたか? 時代により、そういう経験をしていない方もいるかもしれませんが、その名残で、今もコピーを持っていれば大丈夫と勘違いしている方もいらっしゃるようです。
でも本当は、保険証の現物を病院に提示するよう法律で決められています。
つまり、病院側は現物を確認しなければならないと決められているわけですから、コピーやスマホの写真の画面では受け付けできないのです。
今の保険証は一人一枚持つものですから、持ち歩いて家族に迷惑をかけることもありません。面倒がらずに手元の「大事なもの入れ」に入れて常に携帯しておきましょう。
それでもうっかり忘れた!!というときはどうすればよいのでしょうか。
基本は「保険証無しで病院を受診する」ことになります。まずは医療費を全額自分で負担する必要があり、その後の手段は2つです。
[1]あとから、保険証があれば自己負担せずに済んだはずの額を払い戻してもらう
加入している健康保険、国民健保などに自分で請求し、所定の額を振り込んでもらう流れです(やむを得ない事情で保険証を提示できなかった場合に支給される費用を「療養費」といいます)。例えば「協会けんぽ」では、サイトから書類をダウンロードできるようになっています。
[2]あとで病院に保険証を持参して、窓口で精算してもらう
これは、後から病院に健康保険証を持参・提示し、負担額の計算をやり直して差額を窓口で戻してもらう流れになります。
ただ、病院側の了承を得られた場合に限って使える方法で、可能かどうかはケースバイケースです。本人確認や所定の期間内に持参できるかどうかなど、ハードルは高いですから、必ず病院の了承を得られる前提で考えてはいけません。
「いや待って! そもそも全額自腹の高額な医療費を払うお金がないです!!」
という場合もあるでしょう。そういう場合は、誰かからお金を借りるとか、緊急で入院してしまった後だったら家族から病院に振り込んでもらうなど、なんとか工面するしかないです。申し訳ないのですが、そこのところはなんとか頑張るしかありません。
つまり保険証とは、そういった、面倒ごとを避けられる強力なツールだと認識して、やっぱり「常に携帯しましょう」という結論になるわけです。
貸すのも要注意! 親切心だから罪にならない?
保険証を借りて使った側は詐欺罪に問われますが、貸した側も(親切心からだとしても)犯罪を手助けした人として罪に問われる可能性があります。
同じ親切心なら、お金を貸す方法で助けてあげましょう。貸したお金を返してもらえるかどうか心配な相手なら、保険証も貸さないのが賢明です……。それくらいシビアに判断するべき行為だと認識しておくことが大切です。
また、ご存知のように保険証は身分証明書になります。うっかり貸して、例えば消費者金融で借金をされてしまったり、別の詐欺のための銀行口座作成に利用されてしまったり……等、さまざまなリスクが想定されます。
本人が悪いことをしなくても、病気やケガで通常の注意力が発揮できない状態なら、落として悪い人に拾われてしまうといった心配もあります。
自分を守るためにも、保険証は忘れないように身近でしっかり管理しておきましょうね!
<クレジット>
●なごみFP・社労士事務所 中村薫