親の終活、何から始める? 親と話し合うコツを知りたい!【FP黒田の人生相談】
今回の相談者さんは、ご両親が終活に向けて動き出したという40代の男性会社員。資産はどれぐらいあるのか、保険には入っているのか。子どもとして気になっていますが、話をする機会がありません。亡くなってからでは遅すぎるため、なんとか話をしようと思うものの、気まずい雰囲気になるのがいやで、なかなか話ができないそうです。さて、相談者さんはどのように話を切り出せばいいのでしょう。いまのうちにできることは何なのか。黒田先生の指南やいかに。
お互いの思いを伝える場をつくろう
終活やエンディングノートが普及してきたこともあり、最近、こういうご相談が増えてきました。ご両親に話を切り出しにくい。その気持ち、よくわかります。
でも、ちゃんと話をしておくことは大切です。ご両親がお元気なうちにぜひやってくださいね。
といっても、ただ「教えて」だけでは親は動いてくれません。親を動かすには段階を踏んで話をすることが大切です。以下の5つのステップの順にご両親の意志を聞き、資産や保険の状況などを確認してみてください。
最初のステップは、まず、お互いがどう考えているかを伝える場を設けること。これができなければ次のステップには進めません。親がどのような老後を送りたいと考え、どういう支援を必要としているのか、子どもは、それについてどう感じ、どんな支援をしたいのか。介護や看取り、医療について、それぞれどのように考えているのか、お互いの想いを伝えましょう。
そうすると、「良かれ」と思って親のためにやろうとしていたことが、実はまったく的外れだったと気づくことがよくあります。例えば、両親のどちらかが先に亡くなったら、残されたほうを、子どもは引き取ろうと思っていたとしますよね。でも、子どもの迷惑になりたくない、一人でも住み慣れた場所で暮らし続けたいと考える親も多いのです。
親子であっても価値観は異なります。パートナーがいて、家庭を持っていると、親と考えが違って当たり前。価値観が違うことを前提に、話をすり合わせる必要があるのです。これが最初のステップ。ぜひ、お互いの考えを率直に話しあってみてください。
シミュレーションの後に資産や家計状況を把握しよう
ステップ2ではシミュレーションを行います。たとえば、親御さんが病気やケガで入院することになったと仮定してシミュレーションをしてみましょう。
もし親が病気になったら、あるいは転倒して骨折やケガをしたら、病院からの連絡先は誰にすればいいのか。救急搬送されたのが夜間だったら、すぐ駆けつけるのか様子を見るのか。退院後、自力で通院できない場合、誰が送り迎えをするのか。そうしたこまごまとしたことを決めておきます。防災訓練と同じですね。緊急時にやるべきことをリストアップしておくわけです。
ちなみにわが家はすでに済ませました。実家でひとり暮らしをしている70代の母が、以前、2週間ほど入院したとき、これが役立ったのです。私も含めて、子どもは全員遠方に住んでいますが、連絡先だけではなく、マンパワーも含めて誰が何を担当するのか、SNSを活用してきょうだい同士が連絡を取り合い、看護師の妹が帰省して様子を見にいくなどしてくれました。
シミュレーションをすると、足りないものが明らかになります。保険、お金、マンパワー。親に確認しなければならない点もはっきりします。そうしたら、親に確認しましょう。
親の資産や家計状況を把握するのはステップ3。ここが一番の難関です。というのは、スムーズに教えてくれないことがほとんどだからです。
でも、コツはありますよ。あくまで私が相談に乗ってきた経験からですが、例えば、自己主張せず、常に相手の立場を考えて行動することが多いような親御さんには、「お母さん(お父さん)がそうしてくれたら私もうれしいんだけど」と優しく、情緒に訴えると効果的かもしれません。もっとも、この手が通用せず、「自分は大丈夫だから」と拒否される可能性もあるでしょう。
例えば、物事を冷静に分析するのが得意な親御さんの場合、数字やシミュレーションの結果を根拠にした説得のほうが、話を聞いてくれるはずです。資産や家計状況が不明なことにより発生するデメリットを明確に伝えてみてください。
あるいは、自己主張の強い親御さんは、主導権を握りたがるので、子どもが知識や情報をひけらかすのを最も嫌がります。最終的には親御さんが決めた形に持っていき、「さすがお母さん(お父さん)、お目が高い」といった具合に親御さんの評価につなげていくと納得してもらいやすいですね。
資産を現金化しておくと後々もめにくい?
ステップ4では、終活の洗い出しを行います。親が寝たきりで動けなくなったり、認知症など判断能力が低下したりした場合を想定して、成年後見制度や家族信託など財産管理の方法や遺言についても検討しておくといいでしょう。銀行の家族カードを作って、信頼のおける家族に持っておいてもらうなど、もっと手軽な方法もありますよ。
認知症になってしまうと、法定後見制度を利用するしかありません。できることが限られてくるので、もしもの場合を考えて先手を打っておくことです。
70代ともなると、資産を「殖やす」というよりは「保全する」方にシフトしていくことをお勧めしています。イザというときに使えるようある程度の資産を現金化したり、不要な口座を解約したりしておくことも大切です。
最後は、親に遺言書を書いてもらうステップです。相続には1次相続と2次相続がありますが、お父さんが亡くなって、お母さんが遺産を相続する1次相続よりも、お母さんが亡くなって、子どもが遺産を相続する2次相続の方がもめる可能性が高いです。1次相続は、相続税の配偶者控除を利用すれば1億6,000万円までは相続税が非課税になりますし、お父さんが遺言書を準備しているケースや遺産の多くを「お母さんが受け取るなら」ときょうだい間も遺産分割の方法を納得するケースが多いからです。しかし、2次相続は、配偶者控除は使えませんし、お母さんが遺言書を書いていない場合、遺産分割がまとまらないのです。
なお、エンディングノートは想いを残すことはできますが、法的拘束力はないので、公式な遺言書を書いてもらっておくこと。後からもめにくくなりますよ。2019年1月の相続法の改正以降、遺言書は財産目録については手書きでなくても大丈夫。パソコンでも作成できます。
遺言書の見直し以外に、このほか相続法の改正で、親を献身的に介護した被相続人の親族(たとえば長男の妻が義父を無償で介護していた場合など)には特別寄与分の相続が認められるようになり、遺産分割等や遺留分についても見直しが行われています。このあたりもしっかりと確認しておくとよいですね。
さて、ここまでステップ1から5まで説明してきました。最初の方でも触れましたが、「良かれと思って」取る行動は、往々にして独りよがりになりがちです。誰にとっての「良かれ」なのかを良く考えてみてください。
離れて暮らしている親に仕送りをした方が良いか?という相談もよく受けます。もちろん、親の家計が困窮して、それを助けるために仕送りが必要なのであればやるべきでしょう。ただ、一度仕送りをしてしまうと、ずっと続けなければならなくなります。でも、親が亡くなるまでずっと続けられる経済的余裕がありますか? 続ける覚悟はありますか? 仕送りをすると、親もそれが当たり前だと思い、依存してしまうかもしれません。冷たいかもしれませんが、子どもが親に経済的支援を行うのは、自分の家庭を守った上で、余裕があればその範囲で行うのがベストだと考えています。
依存と頼ることは違います。親も子もお互いにべったり依存すると共倒れしかねません。そうではなく、それぞれが自立した上で頼るときには頼ってもらう仕組みをつくりましょう。子どもが親にできることは、システムを作ること。親が安心して老後を過ごせるスキームを用意することが子どもの役割だと考えてくださいね。
<クレジット>
取材/ライフネットジャーナル オンライン 編集部
文/三田村蕗子
撮影/村上悦子