傷病手当金を受給しているときに気を付けたいこと②退職編
社会保険労務士(社労士)でもあるファイナンシャル・プランナーの中村薫先生の「だれも教えてくれなかった社会保障」シリーズ。病気やケガで休職せざるを得ないときに使える「傷病手当金」。
今回は、退職した後も続けて傷病手当金を受け取るためには、どのような条件が必要なのか、中村先生に教えてもらいましょう!
※専門的な用語をできるだけわかりやすい用語に置き換えています。また、ざっくりとイメージをつかめるよう簡略な説明となっているため、すべての要件や制度の詳細まで触れていません。気になったときは加入している健康保険のサイトなどをチェックしてみてくださいね。
退職後も続けて傷病手当金を受け取れる人、受け取れない人
病気やケガで長期間会社を休み、そのまま退職することになった場合、傷病手当金を受け取り続けるには条件があります。
①健康保険の加入期間が1年以上あればOK
傷病手当金は病気やケガで休業をしているとき、給与の3分の2相当を受け取れる公的な制度です。受給開始日から通算して1年6ヶ月間分受けられます(令和2年7月2日以降に支給開始されたもの、詳細は前回参照)。
かなり長い期間ですから、状況が変わって途中で会社を退職するケースもあるでしょう。その場合、健康保険への加入期間が1年以上あれば、退職後も継続して傷病手当金を受けられます(「継続給付」といいます)。
逆に言えば、入社して間もなく、「健康保険への加入期間が1年以上」の要件を満たせないとき等は、継続給付は受けられないということです。
病気やケガが治らない(=再就職が難しい)状態で退職すると、その後は金銭的にも厳しいかもしれませんが、会社の規定で退職せざるをえないこともあります。
就業規則には休職できる期間や、その後自動的に退職になるといった決まりが書かれていることがありますから、事前に確認しておきましょう。
そのほか、長期の休職となった時は、無理のない範囲で定期的に会社とコンタクトを取ることをおすすめします(精神の病気などで医師から、会社と直接コンタクトを取らないほうが良いといった指示がある場合を除く)。
その際、復職の意思や働く意欲を伝えたり、復職までの流れ(リハビリ出勤や時短勤務をするなど)をお互いに考えたり、それまでに何かできることなどを確認して、会社との良好な関係を維持することも大切です。
②退職日の出勤は避ける
それでも退職することになったら、退職日に会社に行くことは避けましょう。
なぜなら、傷病手当金の継続給付の要件に「退職時に傷病手当金の支給を受けている」というものがあり、退職日に出勤すると継続給付を受けられなくなるからです。最終日に退職のあいさつに行くのがマナーのように思えますが、引き継ぎなどの必要な作業はそれより前に済ませておくのがよさそうですね。
退職後は傷病手当金と失業手当の両方を受け取れる?
会社を退職したら、失業手当(正式には雇用保険の「基本手当」といいます)を受けようと考える方は多いと思います。
しかし、雇用保険の失業手当は「働く意欲と能力がある人」が対象で、「能力」には体調も含まれます。
傷病手当金を受け取っている期間は、医師から「働いちゃダメ! 休んでいてください」と言われている状態です。
そのため、傷病手当金と雇用保険の失業手当は一緒に受けられないものと考えてください。
大切なのは、病気やケガが治った時に手当を受けられるように、ハローワークで失業手当の受給期間の延長を申請することです。
雇用保険の失業手当は、受給できる期間が限定されています(離職日の翌日から1年間)。病気やケガで30日以上ずっと働けない場合、延長手続きをすることで最長で離職から4年間まで、受給期間を延長できます。
退職後に扶養に入りたいときも、傷病手当金の日額によっては入れないことも
なお退職後、家族の健康保険の扶養に入る場合、本人の収入は年間130万円未満(60歳未満の場合)という収入要件があります。 傷病手当金が3,611円/日を超えると扶養に入れない点はお気をつけください。
病気やケガで働けなくなったときに受け取れる傷病手当金について紹介しました。ちょっとした知識ですが、頭の片隅に入れておいて、いざというときに思い出してみてくださいね。
<クレジット>
●なごみFP・社労士事務所 中村薫